4:苛立ち

籠の鳥は水を与えられなければ死ぬ。
だったら媚売って水を得るしかないだろ。

お前はそれを理解してんのか?






足音の主である太った男が闇の中からぬっと姿を現す。
そして床に倒れた未登録の前で屈み込み、じっと凝視してきた。
耳鳴りのするような沈黙と、焦点の合わない目が怖い。


「あ、あの…」

会話を試みようと、未登録がなんとか声を発したその時、
男の口がにいっと大きく横に裂けた。





「食べていい?」













「あのガキ、見つけたらどうしてやろうか」

なんで俺があいつを捜さなくちゃならないのかという億劫さ以前に、
何故かその時の俺はガキが勝手に消えたことに対し無性に不快感と焦燥を感じていた。
面倒だがとにかく見つけ出して捕まえなければ気が済まない。

自分でもよく判らない程苛々しながら歩いていると、廊下の先に問題の丸っこい奴が見えた。


「おいグラトニー! お前…」

真っ暗な廊下の真ん中でゴソゴソしているグラトニーにガキの事を確認しようとした瞬間、
でかい身体の下に見覚えのある細い腕が見えた。



「ッ!退けッ!グラトニー!!」

寸胴を押し退けて下を見ると、ガキが泣きながら床に這いつく張っていた。


「…あっ…」


――ギュッ!

ガキは俺を見るなり思いっ切り腰に抱きついてきた。
その意外な行動に、俺は少し目を見開く。


「うッ…っく」

「…おい、離れろよ」

しがみつくガキを引き剥がそうとしたが、震えながら懸命に首を横に振る。


あんなに毛嫌いしてた癖に。

これじゃ何処を喰われたのか全然判らない。


「あいつに何された?」

「う…、頭…舐められ…あ!いやっ…!」

喋った矢先にガキは脅えて俺の身体に顔を伏せた。

横を見ると、グラトニーが涎を垂らしながら、そろそろとガキにずんぐりとした手を伸ばしていた。

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