4:苛立ち

思えば未登録が無事だったあの時、
全てが杞憂に終わった事になんの苛立ちもなかったんだ。




「グラトニー」

相手を睨みつけながら、しつこく伸びてくる太い手首を掴む。


「エンヴィー、そいつ食べていい?」

グラトニーの言葉にガキは益々身体を震わせた。
そりゃそうだろう。俺が首を縦に振ればこの場で胃袋行きなんだから。


「…こいつは食べちゃ駄目」

畏縮するガキを引き寄せて隠すと、グラトニーはこちらを振り返りながら渋々と廊下の奥に退散していった。


「っく…グスッ」

いまだガキは俺に引っついて震えている。
こいつは俺よりグラトニーが怖いのか?


随分と舐められたものだ。


「お前もいい加減にしろ」

無理やり身体を剥がすと透明な雫が幾筋も頬を伝う。


柄でもなく、綺麗だなんて思った。

そんな自分を嗤い捨て華奢な身体に目をやる。特に何処も食われてないようだ。
完全に手を離すとそれはたちまち膝から崩れ落ちた。

「あらら、何?」

床に倒れたきり動かなくなる。そういやこいつ病気なんだっけ。


俺は黙って小さな身体に手を伸ばした。



「触ら…ないで」

その時、ガキはいつもの瞳を向け、起き上がろうと手をついた。


「素直じゃないねぇ。運んでくださいとか言えないわけ?」

「…」

荒く息を吐きながら尚も自分で立とうとする。
立ち上がる力なんかない癖に…。

分かるんだよ。
足元で動かなくなる人間なら腐る程見てきたから。

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