5:待罪-前編-



「分かってるよ、お前には出来ないでしょ?だから、俺がやるから見たくないなら離れてて」

余分な血が払われ、重厚なナイフがぎらつく。
子供の身体がびくりと震えて。どうしたらいいのか分からなくなる。





「逃げて」

未登録は言った。

少年は泣きそうな顔を歪めたまま、困惑しておろおろと首を動かす。

「ちょっと、何言って…」

「早く逃げて!」

彼女がもう一度そう叫ぶと、少年は弾かれたように立ち上がり、一目散に駆け出した。
すぐに追おうとするエンヴィーの片腕を、未登録はなんとか掴んでしがみ付く。

「もうやめて!」

「どきなよ、自分が何してるか分かってんの?」

「あの子は何も知らない…何も分からない、あんな小さな子を殺さないで…!」

「さっきから何言って…。あいつ逃がしたら、俺達が危なくなるかもしれないんだよ?」


「エンヴィー!」

制止を振り払い、エンヴィーは少年の消えた道の先へ走る。



未登録も彼の後を追い、深い闇に身を投じて行った。





















暗闇に支配された視界の中心に、逃がしたガキの残像が浮かんでいた。




なんでこんな事になったのか分からなかった。




もう、人間の死には慣れていると思っていた。






道なりに走っていると、その先で複数の光源が目に飛び込んできて。
見通しのきく街路はすぐ其処に開けている。
同時に、複数の人の気配と微かなざわめきを感じ、警戒しながら様子を窺った。
夜中だというのに、其処に住む人間達が表まで出てきていた。
目を凝らすと、人だかりの中心であのガキが喚き立てている。

思わず舌打ちをした。

これだけの騒ぎになった以上、もう手は出せない。




来た道を引き返して死体を回収し、俺達は少しでも早く現場を離れるしかなかった。

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