2:止り木





「ごめ…、大丈」

言い掛けて未登録は言葉に詰まった。
自分より彼の方がよほど痛そうな顔をしていたのだ。

内心うろたえて言葉を探していると、唐突に引き寄せられた。



「……」


一言も発しない代わりに閉じ込める腕。
月の無い夜を思い出す。






ああ、なんて脆いのだろう。




腕の強さに少し顔を顰めつつ、未登録はぼんやり思った。
まるで湖に薄く張った銀盤だ。

一歩間違えば罅が入ってばらばらになる。
足元が崩れて溶けて消失する。
エンヴィーと未登録の関係は、いつでも、緩く縺れ繋がった危うさの上にあるのだ。


「…エンヴィー、苦しい」

思い出したように抗議したが、聞こえているのか否か、腕を緩めてくれる気配はない。
未登録は密かに溜め息を吐いた。

そして、じっと黙って彼の感情が変移するのを待った。
ただ待った。
今が流れて消えるのを。

気を利かせるでも感傷に浸るでもなく、時は健忘に只管進んでいく。
計測し切れない速さで「今」を刻みたがる。






「……」

肩越しに見える景色。

それを構成する何にも興味をひかれず、未登録はふと今の一瞬に忘れていたことを思い出す。



今も痛い。
痛いけど、



痛いのは…。



傷?
それとも回された腕だろうか?






確かだった筈の痛みは混線し、いつの間にか不明瞭になっていた。

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