2:止り木













「き…貴様ら…!このままじゃ済まさんぞ…!」



「ああ?うるさいんだよ糞が」

地べたに這い蹲っている人間の頭を思い切り踏むと、びしゃりと胸から腰へ鮮血が散った。
舌打ちして赤黒い液体を拭い払う。

血の臭いがすると未登録が嫌がる。
…前はそれが愉悦で放置してたけど。


「あ〜あ、服汚れたんだけどー?」

動かなくなった人間を憎々しげに足で転がした。物を蹴るのと同じ反応しか返らない。
こっちを無視して簡単に死ぬのがまたむかつく。

どうせ処分するならもうちょっと潰してコンパクトにした方がいいかもしれない。



「エンヴィー」

口元を吊り上げた、其処で声が掛かる。
これも長い付き合いのせいだ。口を挟むタイミングは絶対外さない。


「仕事に私情を持ち込むのは感心しないわね」

もう少し訊きたい事があったのに、とラストは眉を顰めた。
黙認する癖して小言を言うのは忘れない。


「また別の奴捕まえればいいじゃん。こいつ無駄口しか叩けないみたいだったしさぁ」

足の甲で人間を持ち上げて、そのまま他の死体の上に放り投げた。













「ああ、そうだわ。エンヴィー」

アジトまで戻ると、別れ際ラストが思い出したように言った。


「これ、お嬢さんに」

差し出された小さめの白い紙袋。
中身は見なくても分かる。


「……」

「?何かしらその顔」

「なんでもなーい。一応貰っとくよ」

言いながらそれを受け取って。

「人に物を頼んでおいてそれ?雑用は今回限りにして貰いたいわね。
大体病院に潜り込むなら貴方が…」

「まあまあ。ラストが近くで仕事があるって言うから。
それにさっきもちょっと手伝ったじゃん」

「あら、邪魔をされた記憶しかないわ」


そんないつも通りの会話を一頻り交わした後、未登録の部屋へ向かった。




ラストに頼んだのは、前に未登録に渡した鎮痛剤と同じ物だった。
適当に見繕った薬だった。
あいつが何も言わないから気づけなかった。
薬が大して効いていなかった事。





「……」

欲しい物があるかなんて馬鹿げた質問だ。
今未登録に必要な物が此処には何もないのに。




医者も居なければ薬も無い。
医療行為なんか成立しない。


血液に栄養を流しても、寝ても覚めても青い顔をしている。
縫い合わせた傷さえいつまで経っても塞がらないのだ。
なんて脆弱なのだろう。
なんて儚いのだろう。


あんな傷み易い生き物を、なんて簡単に傷つけたのか。










忘れてはいけない。

あいつは俺と違う。


しっかりこの世に繋ぎとめておかなければ、駄目なんだ。







静まり返った部屋の扉の前で立ち止まる。


ぎりっと奥歯を噛み締めると、僅かに鉄の味がした。

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