小説 | ナノ


▽ 羽根突きとお年玉 その2


「とりあえず二人とも……そこに座っていただけますか」
「「はいっ!!」」
しゅばっと正座する二人を睥睨し、氷の微笑を浮かべる。
「家の中で羽根突きをしてはいけないとか、食事中に暴れ回ってはいけないとか、そんなことは100も承知でやってるでしょうから今更言いません。でも、集団生活でルールを破ったら罰を受けるということは身をもってわかっていただいた方がいいようですね?」
「すみませんでしたどうかお許しください!!」
「こんなところで死にたくない……」
震え上がる二人にも、メイルは全く容赦しない。
「ええ勿論許してさしあげますよ。相応の罰を受けたらですが」
どうやらお雑煮を食いっぱぐれたことに相当腹をたてているらしかった。食べ物の怨みは怖いというが……自業自得とはいえご愁傷様。なむなむ。
合掌してる間にも、メイルのお仕置きは続く。
「とりあえず、皆が食べ終わるまでそのまま正座していてくださいね」
「うぐ……はい」
「……」
「少しでも崩したら、足の上に辞典乗せますから」
声にならない悲鳴を漏らして座りなおす二人を見て、メイルは怒りの表情を引っ込めた。
「やれやれ……ほんとに手を焼かせてくれます」
「メイルお疲れ〜。お雑煮、僕の少し食べる?朝ごはん少しは食べないと」
「ありがとうございます。甘えさせてください」
メイルがスカイの横に座る。ようやく空気が緩んだか……はぁ、胃が痛い。
けれど、メイルがまだ怒りを納めたわけではないことを、二人はすぐに思い知ることになる……。



ミウが雑煮を飲み干したころには、二人はとっくに限界に達していたらしい。
「もう足崩していいですよ」というメイルの言葉を聞いた途端に二人は足を崩して倒れ込んだ。一応「お疲れ」と声をかけるが、返事がないただの以下略。
結局二人がなんとか体をおこしたのは、皆が食後の片付けを全部終えてからだった。
「あ〜……きっつい……」
「大丈夫か」
「全然大丈夫じゃない。でも、これで許してもらえるんだよね?」
「たぶんな……」
と言いつついまいち確信が持てない。メイルの“とりあえず”発言が引っ掛かっていた。
しかし二人とも全く気づく気配がない。
「このあとは初詣だっけ?」
「らしいな」
「あーあめんどくさい」
そういって炬燵にもぞもぞ潜り込むライル。
「日本の伝統だから我慢してください」
「うー……あ、そういえば!」
「なんですか?」
「初詣の前に!お年玉ちょうだい!」
炬燵から顔だけだして、目を輝かせる。怒られてすぐにお年玉を要求するその図太さは見習いたい。というかお前メイルとそんなに歳変わらないだろ?
「そんなこと言って、こときもほしいでしょ?」
「まあ……そりゃあな……」
ちらりとメイルの方を伺うと、彼はふわりとやわらかな微笑みを浮かべた。
「言われなくても、お年玉はちゃんと用意してましたよ」
「ほんと!?」
「もちろんです。……ところで、お年玉とは何を指しているか知ってますか?」
「え……お金、じゃないの?」
「さあ……」
まさか、さっきのいざこざでお年玉をワンコインにしようとしてるみたいな話だろうか?
「そもそもお年玉とは、歳神様に供えたお餅を、子供達に御歳魂として食べさせる習慣が由来とされています。つまり、お餅のことなんですよ」
「え、それって……」
「はい、私はすでにお年玉を皆さんに振る舞っています。もっとも、私はお年玉を食べ損ねましたが」
穏やかな笑みを浮かべながら淡々と話すメイル。やばい目がマジだ。
「あの……メイル……さん。もしかして怒ってます?」
「……」
「無言やめてください」
「私もお年玉ないの……?」
ライルを睨みつけながらミウがつぶやく。
そこで、スカイがニコニコしながら話しに割り込んできた。
「お年玉はもう食べちゃったけど〜じゃーん!」
効果音とともに袂から取り出されたのは、カラフルなポチ袋。
「お小遣ならちゃんとあるよ〜」
ものは言いようだな。
その言葉に、年少コンビだけでなくライリツもパッと顔を輝かせる。
「さすがスカイ!!」
「あ、でもライルくんとリツくんの分は没収ですから」
「……!?」
「いい子にしてなきゃお小遣なんてもらえるわけないでしょう?」
「まあほんとは二人にもあげたいんだけど、メイルが怖いからね〜。ライルもリツも、食べ物の怨みは怖いって言葉覚えた方がいいんじゃないかなぁ」
大人組の笑顔に、ライルもリツも、今度こそ観念したようだった。
このあと、二人がなんとか俺からお小遣をせびろうとしたり(「僕たち友達だよね!?」)、初詣にて、ショコラが数少ないお小遣からライリツに奢ってやるという大物っぷりを見せたりするのだが、それはまた別のお話。






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