小説 | ナノ


▽ ミイラとりがミイラ


突然で悪いが、俺、言己は今、全身を拘束されている。ぎっちぎちに絡まっていて、少しもがいたくらいじゃ抜け出せそうにない……というか、もがくことさえできない。唯一自由なのは、肘から先と手首だけ。
とは言っても、別に犯罪絡みのどうこうではない。むしろ半分以上は自業自得だったりする。悲しいことに。
「なに途方にくれた顔してんの?こうなったらこの状況を楽しむしかないじゃん」
気楽な感じに言ってくるライル。うるさい。元はといえばお前のせいじゃないか。
八つ当たりに似た感情を抱きながら、俺はこれまでのことを振り返っていた──…。


今日、10月31日。この日は、朝から家中が朝から騒がしかった。俺達が暮らすシェアハウスのハウスルールその1、「イベントは皆で楽しむ」を実行すべく、皆朝から準備に追われていたのだ。俺も自分の仮装に着替え、家の飾り付けに奔走していた。
作業に区切りがついたので、休憩がてらにTwiterを眺めていた時だった。馬鹿二人組のツイートが流れてきたのは。


踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
あ、やばいww

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
鳶とww絡まったなうwwww
あ、絡まったって言ってもやらしい意味じゃねぇぞwwwwそういう妄想ちょっとでもした奴、後で死刑だかんなwwww


鳶はライル。九官鳥はリツのTwiterネームだ。あの問題児、またなにかやらかしたらしい。
試しに二人のツイートを遡ってみると、どうやらリツの着替え(リツは包帯男の役だ)をライルが手伝っていたところ、うっかり絡まってしまったようだった。なんであの二人は何をするにしても面倒事をおこすんだろうな。トラブルの女神に微笑まれでもしてるんじゃないか。
放っておくわけにもいかないので、ため息をついて立ち上がる。片手で素早く二人へのリプライを打った。送信。
……あの時、よけいなお節介を焼かなければ、こんなことにはならなかったのに──…。


記 @Diary
お前ら今どこ

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
救世主キター(≧∇≦)ー!!

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
@Diary
キター!!
ありがとう助かる!一階のリビングにいる!


「……これはひどいな……」
一階リビング、ソファの上。包帯まみれの物体が二つ転がっていた。
「ちょ、そう言いながら何写メってるのさ」
「……」
「いや、日記に書こうかと思って……」
「そういうのいいから、早く助けてよ」
比較的自由な足をバタバタさせて抗議してくるライル。相変わらず、リツはリアルでは無口だ。
「助けてって言われてもな……」
とりあえず手近な包帯を引っ張ってみる。だめだ全然緩む気配がない。
「包帯の端っこはどうした」
「あー…包帯の海のどっかに沈んでるんじゃない?」
暢気に答えるライル。殴りたい。
「いろんなとこ引っ張ってれば、何かの弾みで緩むよ。……たぶん」
「……ことき……頼んだ……」
がしっと足を拘束してくる二人。俺は観念して、包帯との格闘を始めた。
……そして数分後。
「あ」
「あ」
「……」
俺はめでたくミイラ男の仲間入りを果たした。
……どうしてこうなった……。


踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
【悲報】こときがついに僕らの仲間にwwww

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
ミイラとりがwwwwミイラwwwwうぇっwwwwうぇっwwww

記 @Diary
くそ……なんだこれほんとに取れない

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
こときめっちゃがんばってるwwww

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
@Diary
どんまいwwwwプギャーwwww

記 @Diary
@Twiter
お前後で覚えてろよ

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
@Twiter @Diary
で、どうする?この体勢そろそろ疲れてきたんだけど

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
@LINE @Diary
こういうときの我等がオカン、だろww
こときメイルにLINEしてくれ

記 @Diary
@Twiter @LINE
今送る


LINE送信後わずか三分でやって来たメイルは、俺達の姿を見て呆れと笑いの混ざった顔になった。
「……非常事態と聞いて飛んで来たんですが……貴方達はなにをやっているんですか……?」
「えっと……絡まっちゃって。助けて?」
「どうやったらこんな見事に絡まるんです?」
それは俺が知りたい。
と、そこで、メイルが予想もしなかったことを言い出した。
「まあ、ちょうど飾りつけも済んでますし、夕飯の支度が整うまでこのままでいてくれませんか?」
「……!?」
「だって、リツくんとライルくんは放っておくと何しでかすかわからないじゃないですか。だったらこのままでいてくれたほうが……」
「そんな!大人しくしてるよ!」
「信じられません」
真顔だった。そりゃそうだ。
だけど、それ俺は完璧とばっちりじゃないか。
「すみませんこときさん」
いや謝られても……。
メイルはそのまま背を向けて台所に戻ろうとする。慌てて呼び止めようとした時だった。
「逃がさないよ!リツ!」
「了解……!」
突然ライルとリツがメイルに体当たりした。同じ包帯に絡まったままの俺も、自然引きずられる形になる。
額が床にぶつかる鈍い音がした……やばい、どうしよ目茶苦茶痛い……!
「うわあ!?ちょ、なにするんですか!」
「メイルが僕達を見捨てて戻ろうとするからだよっ!」
「……」
近くで二人が争う声がする。少しは俺の心配もしろよ!!
「ちゃんと夕飯の時にほどいてあげますから!」
「今ほどいてよ!」
「嫌です。これ以上面倒事おこされたらたまったものじゃありませんよ」
それからどたばたと音がして(たぶんメイルがライルを振り払ったんだろう)、メイルが立ち上がる気配が……。
「あれ……?」
「あ」
「……」
ん、なんかデシャヴ。
ぶつけた額をさすりながら体をおこす。そうして見えたのは、青ざめたメイルと、メイルに絡まった真っ白な包帯。
「……絡まっちゃいました」
「ちょ、嘘でしょ!メイルまで……!?」
「お、落ち着いてください!これくらいならすぐ解けますから……!」
メイルが慌ててほどきにかかる。
と、そこに追い撃ちをかけるように、
「ただいまー……わわ!?みんなどうしたの!?」
我が家の天然トラブルメイカー達が帰ってきた。
おいおい、嫌な予感しかしないんだが……。
「ショ、ショコラくん、ミウさん。ここは大丈夫ですから二人は自分の部屋へ……」
「だ、だめだよ!ほっとけないよ!」
「そうよ!ここはわたしたちに任せて!」
必死に説得するメイルの言葉にも耳を貸さず、こっちに近づいて来る二人。だめだ、この不器用コンビにどうこうできる問題じゃない……!
「ショコラ!いいから自分の部屋戻ってて!」
「緑兄!まっててね!今たすけるから…!」
「話きけよっ!」
「ミウさん、お願いですからショコラくんを連れて自分の部屋に……!」
「しんぱいしないで!ぜったいうまくいく……あ」
「あ」
「……」
「緑兄ごめえええええ!!」
「ふざけんなああああっっっ!!」
もうやだこの流れ。


歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
【ミイラが】俺終了のお知らせwwww【6体】

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
草生やしてる場合じゃないよもう!ショコラ溶けろ!今すぐ溶けてなくなれ!

ココア @Kakao_talk
緑兄ほんとごめん…!!(ρ_;)

みう @music
わ、わたしも……!

レター @mail
@カカオ @Music
二人に悪気がなかったのは皆知ってます。
次から気をつけてくれればそれでいいんですよ^^

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
メイルの優しさに全俺が泣いた。
二人とも裏山爆発しろ

レター @mail
@Twiter
貴方はまず日頃の行いを振り返ってくださいね?^^

歌う九官鳥@鳶とペア画 @Twiter
同じ^^←のはずなのになんだこの温度差……!!

記 @Diary
結局生存者はあと一人か。
@Twiter
ざまあみろ

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
こときひどいwww
じゃあ兄さんLINEで呼ぶよ!

お絵描きマシーン@故障中 @Skype
@LINE
呼ばれて飛びでてじゃじゃじゃじゃーん!

踊る鳶@九官鳥とペア画 @LINE
@Skype
!!?wwww
本人きたwwww

お絵描きマシーン@故障中 @Skype
皆何やってんのー?
造花作ってって言われたから作ってたのに、全然ストップかかんないし。そろそろ僕の部屋造花で埋まるよ?

レター @mail
@Skype
すみません、緊急事態なんです。造花作りは終わりにして助けてくれませんか?

記 @Diary
皆包帯に絡まって動けないんだ。助けてくれ

お絵描きマシーン@故障中 @Skype
えっじゃあ今皆包帯でぐるぐる巻きになってるの?すごいね!!
わかった。準備するから待っててね。すぐ行くから

メイル
@Skype
え、準備って……ハサミだけでいいんですよ?

お絵描きマシーン@故障中 @Skype
んじゃりだーつ

メイル
@Skype
え、ちょ……!?


「……」
「これは完璧離脱してますね……」
あのあと、一斉にリプライを送ったか、反応が一切ないまま数分が経過した。
「空兄どうするのかな……?」
「さあ……」
皆して首を傾げていると、バタン!とドアが開いて、スカイがようやく姿を現した。
……何故か、手に造花がつまった段ボールを抱えて。
「お待たせ!」
「……え、いやあの……その造花はなんなんです?」
「これだけだとちょっと色足りないかなーと思ってね」
「……は?」
唖然としたメイルはガンスルーでスカイは段ボールを持ち上げると……俺達の頭上でひっくり返した。ヒラヒラと舞う作り物の花たち。唖然とした顔の俺ら。
え、何やってんのこいつ。
「わぷっ……ちょ、何するの兄さん!!」
「いやあ、絵になるかなと思ってさ〜」
スカイはじっくりと俺達を眺め回してふわふわ笑う。
「うん、なかなかいい感じだね。ちょっとスケブとってくる」
「ライル、これはつまりどういうことだ」
「僕たちのこの状況がスカイの創作熱に火をつけちゃったみたいだね」
諦めたような声でライルが答えた。じゃあなにか、スカイはこのままここで絵を描こうとしてるとでもいうのか?
「ちなみに、スカイが絵ひとつ描きおわるのにどれくらいかかるっけ?」
「うーん物にもよるけど……色つけるつもりみたいだし2、3時間は覚悟しといたほうがいいんじゃない?」
2、3時間!?冗談じゃない!いい加減この体勢も限界だぞ。
「何とかしてスカイが戻ってくるまでに包帯解けないか」
「無理でしょうね」
ため息混じりにメイルがいう。
「仮に包帯を解く手段があったとします。でも、それで解いてしまったらスカイが怒るんじゃないですか?創作を邪魔されたスカイは怖いですよ」
「……」
「少なくとも私はやりたくありません」
そういえば、前にリツが絵を描いてるスカイの近くで音楽を大音量で流して怒られたことがあった。リツの青ざめた顔を見たのは後にも先にもあれっきりだったな……。
「なに途方にくれた顔してんの?こうなったらこの状況を楽しむしかないじゃん」
気楽そうにいってくれるな。俺たちだけじゃなくメイルも絡まってるって事は、夕飯も後にずれ込むって事なんだぞ。
暗くなっていく視界。遠くで絵の具とって来たよーというスカイの声が響いた。




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