私はジェネシス・ラプソードスを愛している。
彼と有限な時間の一部を共有する度に、私の頭にはこの結論だけがいつも残る。他にも思っていることは沢山あるはずだけれど、その全てを差し置いて、たった1つの好意を自覚する結論だけが、尾を引く。
陽に当たると赤みを増す、透けるような赤茶色の髪。
奥に見える優しくも強い光は変わらない、今は淡い青緑色をした夢を見る魔晄の瞳。
しなやかな骨組みの手なのに、剣を握る人間特有の硬い皮膚の感触や、男らしく節くれだった指先。
気性は少し不安定だけれど、丁寧な所作が魅力的で、つい見とれてしまいそうになる。
そんな、詩を愛する幼馴染の全てを、私は幼い時から胸のうちで愛しく感じているのだ。

「…エヴァ?どうした、足を止めて」
「ううん、なんでもないよ」

でも、私1人が愛を感じているだけで…彼も同じ想いを持ってくれているのかと確認する勇気は持てない。華やかなジェネシスと、地味な私では釣り合いもない。アンジールと同じように、幼馴染だから私のことも大切にしてくれてるだけだったら。そう考えると、同じでは無いかもしれない愛を語るのはあまりにも恐ろしくて、いつもの他愛のない会話だけを続けてしまう。

「本屋に行きたいんじゃなかったのか?早く歩かないと置いていくぞ?」

そうやって呆れたように笑う顔も大好きで胸が高鳴るけど、ぐっと押さえ込んで駆け寄って、細くもしっかりと筋肉のついた腕に抱きつく。

「ひどいよジェネシス。ついてきてくれたのに、置いてくって」
「お前が急に止まるからだ」

口を尖らせながら下から見上げた瞳は、意地悪を言う割に優しくて暖かくて。周りから恋人に見えたらいいのにな、とか一瞬浅はかにも考えたりしてしまうほど胸が詰まってしまって、馬鹿な期待に気づかれないように、より強く腕を抱きしめて笑う。

「もう、ちゃんと一緒に歩くよ。だから置いてかないで」

できればずっと。
付け足したい言葉は喉の奥に飲み込んで、するりと抱きしめた腕を解いて、つかみ直した彼の手を軽く引く。

「いこう?ジェネシス」
「…全く、それはこっちの台詞だろ」
「うふふっ」


end
感情の結論
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