ここはミッドガルにあるタワーマンションの1室。そう、会社が用意してくれた私の部屋で、私しかいないはず。そのはずなのに、目の前のテーブルに積み上げた資料を押しのけて、どさりと置かれた箱。論文作成に集中していた私は驚いて肩がはねたけど、すぐに判明した目の前の犯人を、ちょっとだけ不満をこめて眼鏡の奥から見上げた。

「集中してるなら鍵くらいかけろ、エヴァ」
「...もー、ジェネシス。大事な資料が」
「そんなものあとで片付けたらいい」

それがなんだと言わんばかりのソルジャーの幼なじみ。
強引なんだから、とひとつ息を吐き出して、ダンボール箱について訪ねてみる。


「それで、これはなぁに?」
「林檎だ。実家からさっき届いた」
「まあ、おばさまたちから?」

他愛もない会話をしながら箱の蓋に手をかければ、顔を出す、地元懐かしのバノーラ・ホワイト。甘酸っぱい匂いに、自然と心が踊る。

「美味しそうだね。でもどうして私のところに持ってきたの?」
「お前の焼くアップルパイが食べたくなった」
「アップルパイ?アンジールの方が上手なのに」
「そうだが...お前のが食べたいんだ」
「なによーそれ」

アンジールの方が得意だって認めてるのに、それでも私に焼かせようというのか。ジトっとした目向けて見ても、譲らないという顔。

「(わがままだ)」

そんな言葉が浮かぶが、私のが食べたいとジェネシスに言って貰えるのは嬉しくもなる。だから言うことを聞いてあげようと椅子から立ち上がり、椅子に掛けっぱなしだったエプロンをつけた。

「焦がしちゃっても、ちゃんと残さず食べてよ?」
「俺が食べれるように焼いてくれよ、エヴァ」
「もー、そういう言い方ほんと変わらないんだから」

勝手にソファに腰掛けてくつろぎ始めた背中に少しだけ口を尖らす。
ジェネシスはやっぱり手伝いをする気はないらしい。彼がすっと手伝いをし始めたら、それはそれで怖いけど。ああでも、こんなに沢山の林檎を2人だけで食べるにはもったいない。

「ジェネシス、手伝ってくれないならアンジールを呼んできてよ」
「こっちに来る前に呼んである。そろそろ来るはずだ...多分セフィロスもついてくるだろうさ」
「既に呼んでるのね...」

行動の早いことこの上ない。

「合鍵を俺達に渡してる時点で、出入りは自由だろう?」
「いやそうだけどさ...でもここ私の部屋だよ?」
「鍵もかけないでおいて今更なんだ」
「...わかったよもう」
「それにどうせお前なら呼ぶだろうと思ったから、先に呼んだまでだ」

実際に言い出しただろ、と背もたれ越しに振り替えって笑うジェネシスは相変わらず格好がついていた。なのでそれ以上文句も言えず、せめて落とした資料を拾っておいて、とだけ伝えてキッチンに立った。


end.
愛しき人は林檎の匂い
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