「紹介しよう。新人の研究者だ、セフィロス。今日からしばらく、お前のバイタルチェックをするのは彼女に一任してある...仲良くやるといい」

相変わらず嫌な笑みを浮かべた宝条が引き合わせたのは、俺と同じくらいの歳の白衣の少女。それは、喉を震わせて緊張していた。それは、少し言葉につっかえているようであった。
だが、それは控えめな雰囲気と裏腹に、しっかりとした声で「エヴァ・イツハークです」と、俺に名乗った。


***

「...セフィロス、起きてよ」
「...ん...エヴァ?」
「検査は終わったよ。珍しくよく眠っていたね」

淡い外界の光を頼りに目を開ければ、真上から見下ろしてくる、あの日より大人に近づいた、今のエヴァの姿。

「...夢を見た」
「夢...?ますます珍しい...どんなのか聞いてもいい?」
「エヴァと会った日の夢だった」

ありのまま伝えればエヴァは驚いたらしく、検査用機材を片付けだしていた手を止めた。

「...それは、なつかしい夢だね」
「お前が小さかった」
「セフィロスもその時は小さかったよ。今では...2m超えだけど」
「...違った。お前は今も小さいな、エヴァ」
「その感想は余計」

台から起き上がって見下ろせば、エヴァは今も小さかった。
それを口にしたら額を軽くカルテで小突かれた。
本当のことを言っただけだと口を尖らせれば、エヴァは口元を抑えて控えめに笑い声をこぼした。
エヴァの笑みを見ていると、表情が凍りついていると評される俺も、少しばかり口が緩む気がする。

「...あの頃はエヴァがバイタルチェックをしてくれていたが...今日は久しぶりだな」
「そうだね。今はもう私も別のことを任されるようになったから...今日はたまたま手が私が空いてたから、やらせてもらったの」
「そうか...随分、偉くなったな」
「偉くなってないよー。相変わらず研究してるだけだもの。科学部門のベテランなんて肩書きだけよ」

いいように使われてるだけ。
俯き気味に漏らされた声には、いつもの明るさや覇気はなかった。思わず腕を掴む。するとエヴァは驚いたように顔を上げた。そして少し困ったように、だが目を細めて笑った。

「...セフィロス、人間らしくなったね」
「...なったか?今のエヴァの気持ちを理解できないが」
「なったよ。こうやって貴方、私を気遣おうとしてくれてるもの」
「(...だとしたらそれは、)」

お前と話してきたおかげもあるのだろう。

end
英雄は被験者
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