「もう、三人して…」
「すまない、エヴァ…止めには入ったんだが」
「ジェネシスを熱くさせすぎた」
「熱くなった俺が悪いみたいな言い方するな」

水掛け論を続ける三人に、もう、と再び息を吐き出した。
ソルジャー2nd、3rdのトレーニング用のシュミレータールームが突然、一室だけダウンした。それも、誰も使用の申請を出ていない時間帯だったから、その事実は少しだけ関係各所を賑わせたが、犯人たちはすぐに判明し、事態は秘密裏に沈静化した──が、その犯人たち三人組は私の幼なじみたちだった。だから関係各所の中にいる一人である私が、窘め係として来させられたというわけなのだが、私は叱りにきたというより──ここが治療室であることが心配だった。

「アンジール、火傷したって聞いたけど」
「俺は大丈夫だ。『かいふく』のマテリアで治るくらいだったからな。だが、ジェネシスが…」
「…うん。ジェネシス、怪我したって聞いたよ」
「もう手当はしてあるし、俺だって軽傷だ」

ベッドに腰掛けている当人に呼びかければ、なにかまだ拗ねているようで憮然とした態度で突き放された。ジェネシスは気分でこういう所があるから、少し難しい。

「肩だったんでしょう?見せて」
「ソルジャーなんだ。すぐ治る」
「そうかもしれないけど、心配してるんだよ」
「いらない心配だ」

ジェネシス、と呼びかけても態度は頑なに変わらない。ため息がもう一度出そうになるが、傷をつけたセフィロス本人に見られたくないからかもしれない。でもセフィロスにそれを直接言うのは酷だし…アンジールなら、意図を汲んでくれるかな?

「アンジール。ごめん、セフィロスと出ててもらっていい?」
「…ああ、わかった。セフィロス、一旦出るぞ」
「どうしてだ?」
「エヴァはジェネシスと落ち着いて話したいらしい」
「(好きだから、というやつか…!)わかった」

さすがアンジール、頼りになる。すんなりセフィロスを納得させて、連れ立って出ていく背中を見送ってから、ジェネシスにまた向き直る。
彼の方も、人払いされて観念したように私を見た。

「…それで、実際どうなの?本当に軽傷?」
「心配しすぎだ。深手を負うほどセフィロスに後れをとったりしていない」
「ジェネシスって見た目より熱くなりやすいから…かなり、負けず嫌いだし」
「子供っぽく聞こえる言い方するなよ」
「でも実際、それでアンジールに火傷させたり、しばらく剣を握るのも大変な怪我までしたんでしょう?」
「……知ってたのか」
「医務室の担当者にカルテを見せてもらったの」

強がって隠すと思って、と肩を竦めたら、「勝手に…」と、じとりとした目でみられたが、実際言う気がなかったのだろう。それ以上、何も言わないで、深い息を吐き出した。

「2人には言うなよ」
「言わないよ。だから部屋から出てもらったの」
「…だったら、エヴァ。お前もそんな泣きそうな顔するな。二度と握れないわけじゃない。治るまで、少しばかり痛むだけだ」

頬にジェネシスの利き手じゃない方の手が触れる。優しい手つきに、零れそうな涙をぐっと耐える。

「…ほんとに大丈夫?」
「しつこいな」
「体だけじゃなくてね、精神的な部分も」
「たしかにまだセフィロスに届かなかったのは悔しいが…もう、自分の機嫌も取れないほど子供じゃない。俺もお前も、昔より大人だ」
「…うん、そうだね」

でも私が貴方を大好きなのは変わらないから心配なの、という思いを込めて、一度だけ傷に触らないようにハグをする。片腕でも抱き締め返してくれるのが、ジェネシスらしい答えで不安感が解けていく。今なら、もっといつもより、ジェネシスを好きな理由もずっと言いたかった感謝も話せる気がして、口を開いた。

「…私、先に神羅に入社したでしょう?」
「ああ…そうだな」
「私知らない人苦手なのに、ずっと一人で心細かった。だからジェネシスやアンジールがソルジャーになりにきてくれて、また一緒にいられるようになった時、本当に嬉しかったの。その日から、神羅にきてくれた二人の役に立ちたいってずっと思ってるの。戦場で隣には立てなくても、科学者としての立場で」
「エヴァ…」
「だからね。頼りないかもしれないけど、ひとりじゃ大変な時は頼ってほしいんだ」

2人のためなら、きっとなんでもしてあげられるから。
ぴったりと密着していた体を離し、顔をあげてそう言えば、ジェネシスは私の背中に回していた手を離し、自分の顔を覆った。

「お前ってやつは……!」
「ジェネシス?」
「わかったから今顔を見ようとするな!」

覗き込もうとしても許してくれなかったが、耳が赤いあたり、きっと嫌がられてるわけではないんだろう。そう思うとほっとして、かわいいなあと暖かい気持ちになった。
でもそろそろしつこくすると、また機嫌を損ねてしまうかもしれないと、部屋を出ることにした。
「また来るね」とベッドから離れて、扉に手をかける。

「…エヴァ」
「うん?」
「俺は……、いや。なんでもない」

どくり、とほんのちょっとだけ止められた言葉の先に、心臓が鳴った。もしかして気持ちがバレた?それとも全然関係ない話?「そう?いいの?」と、なんでもないふうに促してみるが、ジェネシスは頭を横に小さくふった。

「言いたいことはあるが、また今度…治ってからにしたい」
「わかった。じゃあ、待ってるね」
「ああ、その時は…時間を空けてくれ」

ねぇ、それはもしかして、って思ってしまってもいいのかな。
ほんのりと勝手な期待で火照りだした顔を気付かれないうちにと、室外へ逃げた。

end
あの日「楽園」の片隅にいた
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