「なんだ、2人ともこんな時間までいた…エヴァ?!」
「あ、ジェネシス」
「こんな遅い時間までどうして2人と…とっくに帰っていると思っていたのに…」

ジェネシスの驚いてはいるものの、変わりなく怪我もなさそうだった。やっぱり、とはいえ無事に帰ってきてくれたことに心がほっとして立ち上がり近寄る。
するとグローブを外したジェネシスの手が頬に触れた。優しくて暖かい体温に心臓が少しだけ早くなる。照れくささと彼と幼馴染である幸せが溢れてしまいそうなのを、閉じ込めて、まだ秘密にしていたくて、自分の両手の指を合わせていつものように微笑んでみせる。

「仕事が終わったのもおそかったの。だからね、ジェネシスのこと2人と1緒に待ってようかなって…」
「研究か?あまり根を詰めて、身体を壊すなよ。お前、研究に没頭してると心配になるくらい時間を忘れるからな」
「もう、それはLOVELESSを読み解いてる時のジェネシスもだよ!…でも任務お疲れ様。それに、おかえりなさい」
「ああ…ただいま。そうだ、エヴァ。あとで纏めて渡そうと思ったんだが、ついでだ。先にこれをやる」

音を立てて目の前で外されたのは、いつもジェネシスが魔法剣として使用しているレイピアに付けられているマテリア。色から見て…支援用だろう。
手に取ってよく観察すると、それが『ぜんたいか』のマテリアであることと、随分と使い込まれていることが──

「これ、まさか『ぜんたいか』のマスターマテリア…?」
「ああ、今回の任務中にいくつかマテリアがマスターになってな…」
「(ほんとにマスターマテリアにしてきたのか)」
「(なんでジェネシスもエヴァのために1から育ててきたって正直に言わないんだ?)」
「俺は使わないマテリアだから、お前にやる。探してたろう?研究用の分を」

まだ他のもあるから渡しに行くと、とんでもないことを言ってくるジェネシスに慌てて『ぜんたいか』マテリアを押しつけ返す。

「こんな高価なマテリア研究に気軽に使えないよ!『ぜんたいか』のマスターなんて、ひとつあたりの買取価格だけでも相場100万ギル以上しちゃうんだよ!?いらないなら市場に流した方が…」
「気にするな。俺が使わないものでも、研究で役に立つならその方がいいだろう?それだけだ」

意地でも私から受け取ろうとしないジェネシスに、実際マスターマテリアなんて中々手に入れられなくて苦心していた私の研究者としての欲望の方が打ち勝ってしまって、根負けしてしまった。押し返す手を引いて、ジェネシスの顔とマテリアを交互に見る。

「…ほんとに、いいの?」
「そう言っているだろ」
「えへへ…じゃあもらっちゃう。ありがとう。マテリア部門の人たちにも見てもらって、大事に使うね」
「ああ、そうしてくれ」

嬉しくて、マテリアを両手で胸元に抱きしめてから、カバンにしまいこむ。これでまた、落ち目のように扱われているマテリア部門の人たちも今期はつなぎ止められるだろう。私は部門こそ違うが、いまだ未知が多いマテリア専門の研究がなくなるのは非常に惜しいと思うから、良かった。

「エヴァ、良かったな。ジェネシスからいいものが貰えて」
「うん、すごく嬉しい…!マスターマテリアってほんとに中々出回らないから。今すぐにでも研究室に持ち帰って篭っちゃいたいくらい!」
「それはやめろ。返してもらうぞ」
「体に悪いんだからダメだ。すぐ食べるのも忘れるだろう」
「エヴァ、お前はただの人間なんだ。今日だって帰って寝た方がいいと俺も思う」
「さ、3人とも過保護だよ……」

一斉に3人に普通に窘められてしまって、駄々をこねるのはやめようとしぶしぶ頷く。

「そうしたら、もう帰るんだろう?俺たちが送ってやる」
「え、でも悪いよ。しかも有名ソルジャー1stの3人に送らせるなんて…」
「1人でお前をこんな時間に歩かせる訳にはいかないだろ」
「まあ…たしかに、エヴァのことはどちらにしろ家まで送るつもりだったからな」
「エヴァ、遠慮はしなくて大丈夫だ。前に行った深夜に開いてるカフェでココアを買って帰ろう」
「セフィロスったら…ふふ、私をダシにしてるみたいだよそれ」

私に気を使わせないようにだろう。コミュニケーションが不器用なセフィロスなりに考えて言ってくれた台詞に思わず笑ってしまったけど、「でも、それはいい案だね」と肯定を返せば、セフィロスは僅かに表情を子供みたいに輝かせた。
そうして、乗り気になったセフィロスに早く行こうと急かされ、私たちは4人で神羅ビルから出た。夜中にも関わらず、まだネオンが輝く店のある夜のミッドガルの帰路を歩き出した。

──後日、ジェネシスが箱に抱えてきたマスターマテリアの量に、また驚かされることになるとは思っていなかったけど。

end
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