「全員支給したマテリアは持ったか?」
「はい!装着完了しています、ジェネシスさん!」
「じゃあ、今回の周辺モンスターの殲滅任務中の訓練の一巻として、サブクエストを伝える。3日後、帰還予定日までに支給したマテリアを全てマスタークラスにまで鍛え上げろ。以上だ」

方法は問わない、と解散させようとすれば騒ぎ出した2ndや3rdたち。騒ぐよりも行動した方が早く終わるとは考えられないのか。だから部隊を連れるというのは、煩わしい。
……しかし、今回は1人で行うより人海戦術の方が効率がいいからな、仕方ない。

「全てですか!?」
「何度も言わせるな、全てだ。終わるまで帰れないと思え」
「で、ですが、『ぜんたいか』のマテリアとかもあったような…」
「それが何の問題がある?ソルジャーなら、そのぐらい短期間でこなしてみせて当然だ」

これは嘘ではない。
セフィロスと同じ…いや、セフィロス以上の「英雄」と呼ばれるようになりたい身としては不服ではあるが、『化物』と敵に揶揄されるようなソルジャー1stを目指しているのなら、尚更のこと。確かに今回は俺の「育成したマテリアを、研究素材としてエヴァに贈るため」という私情を挟んでいるが、こいつらにとっても無意味ではないだろう。アンジールにはそこを説明しろと言われたが、それを一から説明する手間も時間も惜しいし、俺も自分の持っている分の魔力を多めに必要とするマテリアを育成する方が大事だ。
「マテリアは3日後に回収する」と、いまだざわついている他の奴らに言い残し、背を向けて、モンスターの気配が犇めいている森の中へ足を向けた。

***

ジェネシスがモンスターの殲滅任務に出て、3日が経った。予定通りなら、今晩が本社への帰還日。

「ジェネシス、まだかなあ」
「そろそろ帰還する頃だと思うぞ」
「任務完了の報告はきていたようだからな」

時計は日付を超えたが、本社に待機中だったアンジールとセフィロスと一緒にソルジャーフロアのソファに腰掛けて、帰りを待っていた。アンジールがくれたあたたかいコーヒーが、そわそわとする心を落ちつかせてくれて、ありがたい。

「怪我とか、してないかな」
「?…ジェネシスに怪我をさせられる奴なんて探す方が難しいんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど…1stとはいえ、そういう油断があったら怪我に繋がるかもしれない。それに、やっぱり戦場にいるんだから…心配しちゃうよ」
「ならまさか、俺やアンジールのことも?」
「そうね、セフィロスのこともよ」

セフィロスからの純粋な指摘は間違いじゃない。たしかにジェネシスは、セフィロスやアンジールは、ソルジャー1stなのだから、傷つけられる敵なんていないに等しい。私の心配なんて、いつだって杞憂だろう。頭ではよく分かっているが、それでも心は、早く無事な姿が見たいと叫んで、感情に身体は突き動かされてしまう。

「(科学者としては、非合理で、論理的じゃないんだろうな)」

「そういうものか」と知見を得たように呟くセフィロスに「そういうものだよ」と短く答えて、カップの中で、ぬるくなりだした黒い水面に目を落とす。すると、そっと頭をアンジールに撫でられた。

「しかしエヴァ、仕事が立て込んで疲れてるだろう。会うのは明日にして帰って寝た方がいいんじゃないのか?」
「ありがとう、アンジール。でも徹夜にも慣れてるから大丈夫だよ。なによりね…ジェネシスに"おかえりなさい"って早く言いたいの。だいすき、だから」
「…そうか。それをジェネシスにそのまま言ってやったらいいと思うぞ」
「や、やだ…まだ告白する勇気も出ないし、気づかれたくないの…秘密にしてね」

ずっとずっと想っている好きな人を、1番に出迎えたい。この淡く胸を火照らせる感情も脳のバグだと言う科学者には、冷静な判断を奪いかねない愚かなものかもしれない。けれど、それでも私は科学者でありつつも、その前に1人の人間という固有の感情を持った生き物であることを、大事にし続けたいと思う。ジェネシスへの密かに積み重ねてきた気持ちを、こうして隠して、大切にしてきたように。
コップに添える手に力を入れた時、じっと見下ろしてくるセフィロスの視線に気づいた。

「セフィロス?」
「ジェネシスは全部言った方がきっと喜ぶ」
「そ…そうだと良いけど、確信が持てないし…今の関係を壊したくないの」
「俺は確信しかないと思うが──」

セフィロスの言葉を遮るように、静かだったフロアの空気を裂くようにブーツの靴音が近づいてきて、止まった。

next
A
/