『アンジール、お願い!今すぐ助けにきて』
「何かあったのか?エヴァ」

突然の連絡は、要領を得ない切り出しから始まった。
電話口から聞こえてくる切羽詰ったようなエヴァの小声に、何かトラブルに巻き込まれたのかとすぐに出れる準備に入りながら落ち着かせるように問いかける。

『私もう限界なの』
「限界?何がだ」
『足が...』
「足?...まさか怪我でもしたのか!?」
『あっだめ!大きな声出さないでアンジール!』

妹のように大切な幼馴染みである彼女が、危険な目に?有能な科学者だ。何か反神羅関連の事件に巻き込まれたのではと緊張感が最大まで高まったが、次の言葉でその感情はすぐ霧散した。

『ジェネシスが私の膝を枕にして寝てるの』
「ジェネシスもそこにい......ひざまくらでねている?」
『そうなの...いきなり部屋に来てね。ただ、全然起きてくれないからもう足が痺れて限界だし、その、そろそろお手洗いにもいきたいし...アンジールに助けにきてほしいなって』

私の力じゃ、身体を持ち上げられなくて。そう申し訳なさそうな声で呑気な理由の助けを求める彼女に、拍子抜けした気持ちを込めて長いため息を吐き出す。
何事もないのはとてもいい事ではあるが、言い方が紛らわしい。

『?アンジール?』
「...いや、なんでもない。というか起こせばいいじゃないか」
『そうなんだけど...疲れていたみたいで、ぐっすり寝てるから起こしづらくて。起こさずベッドに運びたいんだけど...』
「ジェネシスがぐっすり...」

元々神経質寄りな性格なのもあるが、ソルジャーになってからは扉越しに物音がしただけで目を覚ますようなあいつが、電話をかけてきてるエヴァの膝を枕にして今なお熟睡している。
その姿を想像すると、昔よりひねくれたジェネシスの変わらない素直さに苦笑が零れた。

「...本当にわかりやすい奴だな」
『え?なに?』
「なんでもない。すぐ行くと言ったんだ」
『ありがとう、アンジール。ごめんね、ジェネシスが運ばれても機嫌を損ねないのアンジールぐらいしか浮かばなくて』
「手が掛かる幼馴染みばかりだな」
『うー...今回は反論できないや』

きっと電話越しに、いつものように困ったような笑顔を浮かべているだろうエヴァに、待っていろとだけ告げて電話を切った。
どの道、俺が行ってもエヴァという唯一の安らぎを奪われたジェネシスの寝起きが、すこし不機嫌になるのは見えている。だがまあたしかに、他の人間が不用意に声をかけに行ってしまう事故が起こるよりはマシだろうと、面倒の相手をする覚悟を決め、自室のドアノブに手をかけた。

end
安らぎは君と共に
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