(幽助の筋トレを眺める)


幽助ってなんでああも、「恋愛」というものに無関心なのだろう。他にたくさんの楽しいことがあるから。恋愛なんかに頼らなくても、しっかり前を向いていけるから。私も以前はそう思っていた。でも、どうだろう。今私の視線は、幽助を常に追いたいといっている。


「……楽しい?」

庭で筋トレを続ける幽助に問い掛けた。片手腕立て伏せをしている彼の目が、私に向く。それだけで心臓が余計に収縮した。

「楽しいってこたあねーけど、やらねぇとババアに殴られっからな」

いつ確認に来るかわからねぇ。そう言ってブツブツと幻海師範への文句を言う。私は縁側に座り、膝に肘をのせ頬杖をつきながら、幽助のその姿を見つめていた。

「オメーそんなとこで見てねぇで、やることねーのかよ」
「うん、ない」
「・・・」

キッパリ言い切った。だって、何でも良いから、幽助に関わっていたい。24時間365日、幽助と同じ場所で同じことを共有したい。それが、今みたいに傍観者でしかなくとも。
暇で羨ましいぜ、と悪態をつかれる。
幽助に言われたくない、なんて、つい憎まれ口を叩く。素直になんかなれそうもないな。でもこのもどかしい距離も、嫌いじゃないかも。

そう思った矢先、幽助が腕立て伏せをやめて体を起こした。砂のついた手を払い、後頭部をかきながら森へ歩き出す。
私は少し驚き、かなり焦って、縁側から立ち上がった。


「どこ行くの?」
「見られると気が散るんだよ。オレは森でやるから、オメーは庭の石でも見とけ」
「う、動かないもの見たって楽しくないじゃん」
「オレの筋トレ見てて楽しいのかよ?」
「うん!」

幽助のキョトンとした顔に、今のはダメだった、バレてしまう、頭の中にそうよぎった。
だが彼はそれを知る由もなく、「変わってんなぁ」とだけ言ってまた歩き出した。
その背中についていく。


「……筋トレじゃないの?」
「休憩だ休憩」

へへ、と笑いながらポケットから煙草を取り出す。森に来たのはこのためか。
表情では呆れたような目をしながらも、そういうところも微笑ましく思う。呆れるのは私のほうだ。

ふーー、と深く吐いた煙が、ゆっくり空へ浮かんでいく。消えていく煙が勿体無い、そんなこと思う私って変かな。
少し離れたこの距離さえ煩わしい。


「今日の晩飯なんだろなー」

煙草をくゆらす幽助を見てると、他のものが霞んでゆく。彼を纏うもの全てが愛しい。全部、バカなところも、欠点も、全部全部好きだなあ。

「好き」




――あれ?
幽助が驚いた表情で私を見ている。え、なんで?
さっき、「好き」って声が聞こえた。そしてそれは、私と同じ声だったかもしれない。
そんな。私、声に出してた?

「あのっ……いや、えっと……っ」

どうしようかと考える頭はパニックに陥っている。心臓がうるさくて、体温が上がっていって、否定をしたいのか肯定をしたいのか、自分でもよく分からない。
出来るなら無かったことにしたい。時間を巻き戻して、それで……。

「……あー……」

幽助が照れたように、顔を背けて頬をかいた。違う、いや違わないけど違うの。好きなんて言うつもりなかったのに。
背けていた顔が上げられる。なんだかもう泣きそうな私と、幽助の視線が交じわる。
聞き間違いのような、だけどハッキリと聞こえたんだ。

「……オレも」


想定外、
(……本気で言ってんの?)
(……オメーこそ)

2007/11/27執筆 2017/02/10修正

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