(奥手な幽助くん)


「幽助って、私より前に付き合ってた人いた?」

雑誌を読みながらそう尋ねたナマエに、ゲーム画面から視線を移す。
いきなりのことにキョトンとするオレに、ナマエも雑誌から視線を上げた。

「いたの?」
「いねぇよ。知ってんだろ?」
「……だからか……」

何を納得したのか、ナマエはそう呟いてから難しい顔をした。
だからって何だよ、と尋ねても、別に、と言って雑誌をめくるだけ。

「なんだよ?」
「べ〜つ〜に〜」
「キモチワリィな、言えよ」
「何でもな〜い」

ナマエは雑誌を持ち上げながら後ろのベッドに倒れ込む。
オレが朝起きたまんまの、少し乱れたシーツにぽすっと埋もれた。
……何でそんなに無防備なんだよ。誘ってんのか。

「何がだから、なんだよ?」
「しつこいなぁ。何もないってば」
「んだよ、気になんだろ」
「あ、ゲームオーバー」
 
あ?とナマエの視線を追って画面を見れば、ほったらかしにしていたオレのキャラクターが相手にやられていた。
慌ててボタンを連打するものの、すぐに打ちのめされ終了。
ちくしょ〜、もう少しだったのに……とうなだれて悔しがるオレに、ナマエは笑い声を上げる。
オレはそれを睨みつけ、飛びかかった。

「元はといえばオメーのせいだろ!」
「ぎゃー! 何すんのっ」

右膝をベッドに乗せ、笑っていた頬をつねる。ナマエはオレの手を剥がそうとするが、暗黒武術会の優勝者がお前なんかに力で負けるか。
手を離させることが出来ないと察したナマエは、仕返しにと手を伸ばした。

「いてっ殴んなバカ!」
「離してよ! ほっぺ伸びたらどうすんの!」
「いっぱい食えて良いじゃねぇかよ」
「バカ!」

ポカポカと肩あたりを叩く右手と、オレの頭を掴んで押す左手。それにとどまらず、両足でオレの足を蹴りだした。
床に付けていた左足に集中狙いするナマエ。ちょ、危ねっ!

「ナマエ待て、うわっ」
「いたっ!」

左足を払われたオレの体は、予想通りベッドに崩れ落ちた。
 
「いったい……もう、なん……」
「!」

シーツに付けていた顔を上げると、すぐそこにナマエの顔があった。
そして自分たちの体勢を見れば、オレがナマエを押し倒しているようにしか見えない。
ナマエもそれに気付いたらしく、文句を言っていた口を止めフリーズした。


「・・・っ」

オレはゴクリと唾を飲む。
今まで恋人と言っても、友達気分が続いていたオレたちに、この状況は急展開すぎる。まず、近すぎる。
だが自分の中の男のサガが湧き上がるのも感じた。


(って、何考えてんだ! まだキスもしてねぇ!)


自分の中の野獣を理性が止めに入った。そうだよ、泣かせたくねぇし、怒らせてもコエーしな。なんとか大人しくさせた獣に安堵し、視線をナマエの目に向ける。そしてフリーズした。


……め……
目閉じてやがる……!


オレは体温の上昇と共に、とっさに身を引きベッドから立ち上がった。
それに気付いたナマエも目を開き、上半身を起こす。
オレは指をさして叫んだ。

「テメっ……何考えてんだバカヤロー! あんな状況で目なんか閉じやがって、キスだけで済むと思ったら大間違いだぞ!! 分かってんのか!」

慌てるオレにナマエは俯く。ったく、男を分かってねぇな! そんなんだと喰われても文句言えねーぞ! と、何故か説教を始めるオレに、ナマエは鞄を持って立ち上がった。


「おま……オイ!?」

ドアに向かって歩き出したナマエの腕を掴む。ナマエは振り返らずに呟いた。

「……帰る」
「な……なんでだよ」
「……離して……」
「なんだよ、理由言えよ」

ナマエはギュッと鞄を握り締めた。オレに顔を背けたまま、震える声で言った。

「……分かってるもん……」
「あ? 何が?」
「キスだけで済むなんて思ってないもん」

ポカンとするオレに涙目で振り返る。

「好きなのに何もしないから……不安になったんだもん」


ナマエがそう言って眉尻を下げた瞬間、オレの中のチンケな理性は見事に消え去った。
掴んでいた腕を引っ張って、倒れかかった体を抱き止めて、上を向かせて口を封じた。
 
突然のことに驚き身を固めるナマエのことは、悪いけど構っていられない。
初めてするキスなのに、甘酸っぱい思い出にはしてやれそうもない。
その代わり、胸焼けするほど甘ったるいキスになった。

「ゆ、す…」

必死に答えようとするナマエの手が、オレの服を掴む。
力無く握り締めるそれにすら燃え上がって、深く深くキスをした。
やがてナマエが苦しそうにオレの胸を叩いたので、そっと解放してやる。

途端に雪崩れ込む空気に咳き込むくらい、長い間キスしてたことに気付いた。


「……幽助……」

のぼせたように赤い顔と潤んだ瞳でオレを見る。ヤロ、やっぱ誘ってやがるな。
多分負けず劣らず赤い顔をしているのを見せない為に、ナマエをギュッと抱き締めた。

「……お前……あんなこと言って、後悔すっかもしんねーぞ」

この部屋の気温がいきなり上がった気がするくらい顔が熱い。
ナマエが背中に手を回し、オレの胸に頬を寄せた。

「……幽助だから……言ったんだもん」


そう呟くナマエに、あー、ヤバい、とまんねぇと思った。
ナマエにとってあの時目を瞑ったこと、ああ言ったことが、どれほど勇気のいったことだったろう。
今まで我慢してたのがもったいねーな、クソ。

「ワリーがもう我慢しねぇぞ」

きつく抱き締めていた腕を少し緩め、ナマエの顔を見る。
ナマエもオレを見上げ、笑顔を見せた。
覚悟しとけ、加減なんてしねぇから。

2007/11/10執筆 2017/02/10修正

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