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※シリーズについて補足※

メール 2015/2
2015/03/01 10:22

三蔵からメールが来た。
軽快な音楽を紡ぐ携帯を取り上げ、悟空はすぐに操作する。彼からメールが来るなんてかなり珍しい。しかも昼間。仕事中は基本的にプライベートなことは殆どしない。例えメールでもそれは変わらない。尚更珍しい。
少しだけウキウキしながら開いたメールには、【帰宅時間と三蔵からのお願い】を示す内容が書かれてあった。

「…マジで…?」


そしてその晩。
三蔵はきっかり8時に自宅の扉の前にいた。インターホンで悟空に帰宅を告げ、ドアが開かれるのを待っていた。
悟空との愛の巣である郊外の一軒家は、結婚と同時に三蔵が一括で購入したものだった。
都内のマンションも選択肢として考えたが、結局落ち着いたのは一軒家の建築だった。
【玄奘】と表札のかかったドアは、建築の際に三蔵がこだわった部分である。重厚な濃いワインレッドのドアには4分の1程度磨りガラスがはめ込まれており、仄かに中の灯を映している。そしてそこに、愛妻である悟空のシルエットが見えた。

「おかえり、三蔵」

これが、結婚した醍醐味の一つと言わずして何と呼ぶ。開かれたドアから覗いた愛妻は、柔らかな光とともににっこりと笑った。
ただ、いつもと違う点としては。

「早く入ってよ、寒いし見られたら恥ずかしいし」

赤く頬を染めた悟空は、その伸びやかな身体に白いエプロンのみをまとっていた。
所謂裸エプロンである。

そもそも先週末に、リボンの掛けられたそれをちっとも恥ずかしがらずに悟空に差し出したのは三蔵だ。真っ白のフリルがついたエプロン。胸と腰を隠すタイプのそれは、メイドさんが身につけるようなものだった。エプロンを持っていないならそのプレゼントの意味もわかるが、悟空は黒地のタイプのエプロンを既に持っている。
何故、とクエスチョンマークを飛ばす悟空へ、三蔵は「いいから持っていろ」と言って押し付けたのだ。
そして冒頭のメールである。
三蔵からのメールはこうだった。
「8時には帰る。この前のエプロンだけを着けて待ってろ。」
メールを受け取った後の悟空は、赤くなったり青くなったり、はたまたエプロンを引っ張り出して着けてみたり、脱いでみたり、夕飯の支度もままならないほどバタバタと試行錯誤した。
そして、意を決して三蔵の指示通りにエプロンを身につけ、三蔵を出迎えたのである。
悟空が風邪を引いたら大変だとばかりに、三蔵は素早く玄関へと入った。
玄関までは暖房は効いていないが、やはり外気と比べると段違いで暖かい。コートを脱ぎながら明るさに目が慣れるまで、三蔵はじっくりと悟空を見遣った。

「…似合うじゃねぇか」
「ありがと。…恥ずかしいけどな!で、ごはんにする?お風呂にする?」
「決まってんだろ」

ネクタイを指先で緩めながら、三蔵は悟空の耳に吐息のような艶のある言葉を吹き込んだ。

「飯よりも風呂よりも、お前だ。悟空。」




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