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※シリーズについて補足※

すれ違い 2015/3
2015/06/14 22:21




事の発端は半刻前。
いつにも増して眉間に皺を寄せて帰還した三蔵に告げられた言葉だった。

「明日から10日、遠くの寺院に出向く事になった」

朝から会えなかった三蔵にやっと会えた嬉しさで破顔していた悟空も、その言葉に途端に眉間に皺を寄せた。疑問は色々湧いたが、まず確かめることは一つ。悟空は口を開いた。

「遠くって何処だよ」
「地名を言ってお前に伝わるとは思わん。お前の足でも2日はかかる距離だ。だから遠くだ。」
「それで、10日も…?」
「最短で10日だ。それ以上かかるかもしれん」

それきり三蔵はそっぽを向いてタバコに火をつけた。それは暗に悟空に「もうこの話は終わりだ」と告げているに他ならない。

悟空も言われるほど馬鹿ではない。ふぅ、とため息をこぼして、三蔵の次の言葉を待った。今までの経験からして、三蔵の長期の不在時は八戒の家に行くことを許される確率が高い。
寺院よりも美味しいご飯が食べれて、しかも意地悪な僧達もいない。快適で楽しくて…いつまで居てもいいと思う位とても楽しくて大好きなのだ。三蔵が居ないことを除けば。

「…、」

三蔵が一本目のタバコをゆっくり吸っている間、悟空はなんとなく三蔵の横顔を見つめた。
彼はもう自分のことは考えていないだろう。用事が済んだらもう終わり。悟空は三蔵にとってちょうどそこにある石ころくらいに考えているのではないだろうか。とすると、悟空は自分が大層つまらない存在だと思った。
困らせたり呆れさせたりは一丁前にするのに、必要とされている自覚ははたして一つもなかった。
丁度いい。煩わしいし、捨ててしまおう。三蔵はそう考えているのではないだろうかーーーーー。

伏し目がちな紫の目を見ながら、悟空はいたたまれなくなってきた。
だからつい、悟空は思いを言葉に乗せてしまった。

「お、おれ、いらない?」
「…は?」
「おれ、いらない…よな、」
「何言ってんだ」

一度口から出ると、まるで蛇口をひねった水のように次から次へと言葉が溢れた。三蔵の顔は見れなかった。あえて下を向いたまま、悟空は突き動かされるように続ける。

「おれ!…三蔵の邪魔じゃねぇ?なんか、すげぇそんな気がする」
「…悟空」
「だったら、おれ、三蔵の側に居ない方がいい…ッ!」

居ない方がいい。
自分でそう半ば叫ぶように言うと、どうしようもなく心臓が痛んだ。口から出た言葉がナイフとなって刺さったような、抉れるような痛み。
ついでに言葉が通り抜けた喉は毒を飲み干したようにヒリヒリした。
ーーーーーなんだ、これ。
こんな痛みを悟空は知らない。

「…勝手にしろ」

ハッと三蔵を見上げた。苦く告げた三蔵は、短くなった煙草を灰皿へ擦り付け、そのまま部屋を後にした。
違う。そんなことが言いたかった訳ではなかった。そう弁解したいのに、喉から出るのは小さな呼吸の音だけで、三蔵の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。
そうして残されたのは、薄く渦巻く煙と、その下に魂が抜けたように蹲る悟空だけだった。

居ない方がいい。何故そんな言葉が口をついたのだろうか。悟空は途方に暮れた。
きっと、三蔵に否定して欲しかった。そうに違いない。ただ、三蔵が否定する、などというのも考えられなかった。
彼は非常に多くのものを背負っている。自分の信念に基づいて生きている。一人で行動することに慣れ過ぎていて、誰も側に寄れない。それが突き付けられたようで寂しかった。

「だって、おれ、三蔵の邪魔になりたくないんだ…」


ぽつりと呟いたそれは、誰にも届かず消えた。






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