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※シリーズについて補足※

赤い手【マダオ三蔵シリーズ】2014/12
2015/01/02 22:09

めっきり寒くなった。
木々に数枚だけついていた葉っぱが、強い風にあおられて飛んでいく様を見ながら、三蔵はゆっくりと煙草に火をつけた。
12月に入ってからというもの、めまぐるしく時間が過ぎていく。恋人はといえば、いつも以上にバイトを詰め込んで、それで本当に単位が取れているのかと不安に思う。なのに、彼は。そうだ、いつも頑張っている。家事もきちんとこなしている。今日だってそうだ。
久しぶりに午前中からのクラスがあった三蔵が目を覚ますと、既に着替え終わった悟空がキッチンや脱衣所を忙しなく往復していた。

「おはよー三蔵」
「ああ」
「珍しいな。今日午前から?」
「ああ」
「コーヒー淹れるから待ってて」

あまり構うな、と目だけで告げても悟空には届かなかったらしく、彼はまたバタバタとキッチンを出て行ってしまった。
仕方なくノロノロと着替えを始めると、洗濯物を山積みにした籠を抱いてやってきた。ストーブの前でだらける三蔵に構いもせずに、悟空はベランダへと続く大きなガラス戸の引き戸を開いた。
すぐに籠とともに出て行く。外は寒そうだ。ぼんやりと見ると、ふと、悟空の指先が真っ赤なことに気がついた。本当に寒いに違いない。

「…真っ直ぐ過ぎて怖ぇな」

率直な感想だった。あんなにいつもいつも頑張って頑張って。彼はそのうち倒れてしまうんじゃないだろうか。三蔵は着替えを済ませると、ぴっちりと閉じていたガラス戸を引いた。戸の開く音に気付いたのか、顔を上げた悟空は若干びっくり顔で三蔵を見ていた。

「どしたの」
「…俺がやる。手冷たいだろ」
「え、うん。そーだけど」

まだモゴモゴと歯切れの悪い悟空からさっさと洗濯籠を奪い取って、強引に彼を部屋へ押し込んだ。少しだけ触れた指先は氷のように冷たかった。

あんまり頑張り過ぎんじゃねぇよ

閉じられた戸の向こう側、あたたかな部屋でキョトンと三蔵を見つめる悟空に唇だけで告げると、意味を知った悟空は途端に破顔した。
そして手早く洗濯物を全て干し、三蔵自身の指先も凍えきった頃、部屋に入ると湯気のたったマグカップを持った悟空から、強烈なハグとキスを貰った。

「ありがとな!三蔵!弁当作ったから持ってって!じゃ、俺出るから!!」

何よりも嬉しそうな悟空の顔が印象的だった。

そして現在。木枯らし吹きすさぶ公園のベンチの上で、三蔵は悟空の手作り弁当の包みを解いていた。四角い弁当箱は、蓋が透明になっていて、開ける前からご飯と色々なおかずが詰め込まれているのが見て取れた。そして、その弁当箱の上に小さく折り畳まれた手紙が置いてあった。
開いてみると、今朝のお礼と今晩のお誘いが悟空の字で小さく綴られていた。
三蔵はニヤリと笑い、その手紙をポケットへと大切にしまい込んだ。


たまには優しい三蔵を書こう!と思ったそんな冬。




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