愛だ、愛 1

度重なる戦いに疲弊しきった体と心を休める夜営地では、ぱちぱちと松明が音を立てて闇夜を橙色に照らしている。
見張り役のアーダン、アレク、ノイッシュはそれぞれの場所で夜営地を巡回していた。夜風は冷たいながらも見上げれば光る星。
戦いや見張りさえなければ恋人と野原に寝転がってゆっくり見ていたいものだと、アレクは思った。

「おっ、すまねえな!ありがとよ」

その声の主はアーダンだった。言葉からして誰かに差し入れでも貰ったのか。と、その声を聞き付けたのか、それとも違う理由か、ノイッシュが近づいてきた。その顔色はこの闇でもわかるくらい青い。
「よう、ノイッシュ。どうした」
「・・・いや、なんでもない」
「にしては顔が青いぜ」
「お前、アイラから何か貰ったか・・・?」
「いや、貰ってないけど」
「そうか・・・」
珍しく歯切れの悪い、何か言いたげな友にアレクは訝しげな視線を向けた。一体、アイラに何を貰ったというのか。とその時。

「ああ、アレク。探した」

一瞬、ひくり、とノイッシュの肩が動いた気がした。アイラの手には包み。一体あれに何があるのだろうか。
「よーう、アイラ。どうしたんだ?」
「差し入れだ。ほら」
彼女の手の包みから出てきたのは、真っ白なライスボール。
「おっ、ちょうど腹が減っていたんだよ、有り難く頂くぜ」
アイラ自らが握ったのであろう、それを一つ手に取り、かぶりついた瞬間、アレクの口のなかで強烈な塩味がして、思わず噎せた。
「げっほ!?げほ、げほ・・・アイラ、これすごいしょっぱい・・・」
「何だって、ノイッシュは・・・」
「・・・すまない、アイラ」
じゃり、と塩を食べたとノイッシュが呟く。アイラは少しショックを受けたが、ふとある事を思い出した。

それは、アーダンにライスボールを差し入れた時の事だ。彼はしょっぱいライスボールをその場で食べて一言「美味い!」と言ってくれた事。もしかしたら、自分が恋人だから、気を使ってくれたのだろうか。だとしたら料理が出来ない恋人として、見られてしまったのか。だとしたらショックを隠しきれない。その事を二人に話すとアレクとノイッシュは顔を見合わせた。
「あー、それはない」
「なぜそう言い切れる?」
「アイツはああ見えてはっきりと物事を口にする。特に食べ物に関してはな」
同じシアルフィの家臣として気心が知れてる二人は揃って頷いた。

「アーダンは嘘は付かない。それはアイラもよく知っているだろう」
「それは・・・そうだが」
「要は、あれだ」
「?」
「愛だ、愛」
「んなっ!?」

アイラの顔が面白いくらいに真っ赤に染まっていく。それを見てアレクはからからと笑った。ノイッシュも口元に笑みが浮かんでいる。普段凛々しい彼女はこと恋愛に関しては・・・特にアーダンに関してはこうだ。付き合いはじめの頃はそれはそれで周囲をニヤニy・・・微笑ましいと思わせたものだ。
アーダンが美味いと言ったのも嘘ではない。アイラの差し入れが純粋に嬉しくて、喜んだのだった。

「いやあ、俺にはアイラのポイズンクッkうわあっ!?」
「アレク・・・くらえ!」
「わー待て待て待て!俺はまだ何も言ってない!ゆうしゃの剣は止めうわあああああっ!!」
「問答無用っ!」

顔を真っ赤にしながら剣を振るうアイラと逃げるアレクに余計なことを言わなければ、やってられん、とばかりにノイッシュは友に向かって心の中で合掌しつつ、別の場所へと向かって行った。


一方、アーダンはというとアイラの作った差し入れのしょっぱいライスボールを美味いと言いながら頬張っていたのだった。





あとがき
この世界観で『オニギリ』という名前を出して良いのか迷った結果、無難にライスボールになりました。
アレク好きーさんに謝らないといけません。ごめんなさい。
アイラは意外と料理がちょっと?下手だったら可愛いなと思います。他で言うとブリギッドは海賊育ちのせいか大味。壊滅的なのはディアドラかシルヴィアかもしれない。という妄想。

アーダン×アイラの『ア』は愛の『ア』!


2015/10/28 マリ

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