まい、らぶ、ゆー(アーダン×アイラ) 1


「俺と付き合ってくれ!」

突然の告白に、アイラは心をかき乱された。目の前で深々と頭を下げているアーダンの耳は真っ赤で、顔は見えないが、きっと真っ赤で真剣な面持ちなのだろう。アイラは戸惑いを隠しきれず、何も言わずに、逃げ出した。アーダンの制止も聞かずに。


「それで、私のところに逃げてきたのですわね?」
「っ、別に逃げてなど・・・」
「現に逃げたではありませんの」
「うっ・・・」
先日、好きな人と恋仲になったラケシスの元に逃げ込んだアイラは、ラケシスに事の詳細を話した。こう見えてラケシスとアイラの仲は良いので、話すことが出来たのだが、ラケシスの口から出てきたのはため息と呆れであった。
「無言で逃げたのは流石にまずいわ、ちゃんと返事を返さないと」
「・・・上手く言葉がでなかったんだ」
「上手くも何も、ありのままの気持ちを口にすれば良いのでしょう?」
「・・・」
アイラのアーダンへの気持ちはアイラ自身がよく分かっている。分かっているのだが、それが口にできない、というよりは感情をかき乱されるもので・・・。
ラケシスは再びため息をついた。どうして目の前の友人はこうなのか。戦いの時は凛々しい、頼りになる存在のくせにこと恋愛に関してはこれだ。ラケシスはこの際はっきりさせようとした。
「アイラ、貴女はアーダンさんが嫌いなの?」
「っ、それは、・・・」
「どうなんですの?」
「き、らい・・・じゃない」
むしろいつも背中を任せられる存在として信頼という目で見ていた。
「では、好きなんですの?」
「すっ?!好き、なのか・・・?」
「私に聞かれても分かりませんわ」
「す、すまない・・・」
「アーダンさんをどう思ってるか、言葉にしてみてはどうですの?」
アイラがアーダンをどう思っているか。・・・思えば、シグルドの軍に加わってから、いつも目についたのはアーダンの姿だ。戦いの時だって、アレク達と悪ふざけしてるときだって。アーダンに大怪我をさせた時だって、気にするなと笑って許してくれたことにどんなに救われたか。それが一番嬉しかった。それを胸に手を当てて思うと、答えは自ずと出てくる。友情だとか憧れでもない。この気持ちは。
「ラケシス、ちょっと行ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
「それと、ありがとう」
ある場所に向かって走り出したアイラを、ラケシスはくすりと笑って見送った。紅茶は少し冷めてしまったので淹れ直そうと立ち上がる。その顔は笑みを浮かべていた。まるで姉のように。

「美女と野獣カップルの誕生ですわ」

確信めいたその言葉は、どこか楽しそうでこれからの二人の行方を祈るように。



一方、アーダンは部屋でショックを隠しきれないような、まるでこの世の終わりといった表情をしていた。その目は泣いたのだろう、赤っぽい。それを慰めているのは事の顛末を聞いた(というよりも聞かされた)アレクとレヴィンだった。
「元気出せアーダン、次頑張ればいいだろう?」
「そうだぜ。いつかアーダンに振り向いてくれる女はいるって、多分な」
慰めているのか、悲しみを助長させてるのか、さっぱり分からない慰めは逆効果で、アーダンの一世一代の告白に、『アイラに逃げられた』という悲しみは増すばかりで、アーダンはまたすすり泣き出した。
「うっうっ、所詮俺はモテない男で一生一人なんだ・・・」
「アーダン、アイラだって何もお前が嫌いで逃げ出した訳じゃ・・・」
「じゃあどういう理由なんだ・・・うっうっうっ・・・」
こんな状態のアーダンに二人は、ダメだこりゃ、お手上げだ、とばかりに肩をすくめて困惑した。アレクとレヴィンは、嫌いなら互いに背中を任せられる訳無いのにな、とも思ったが、果たして今の泣き暮れている男に話しても通用するか分からない。と、そんなときコンコンとノックの音がした。

「アーダン、私だ」

その向こうから聞こえた声に三人とも目を丸くした。アイラだ。意外な人物の到来にすぐさま反応したのはアレクだ。ドアを開けるとそこにはいつもと変わらない、凛々しい姿のアイラが。アーダンは何故ここにアイラが来ているのか、まるで分からないといった顔をした。涙も鼻水も引っ込んだ。
「どうしたんだ?今は傷心中の友人を慰めてるんだが」
「アーダンに話がある」
「つってもなあ、あの状態のヤツに話が出来ると思うか?」
アレクは少しだけわざとトゲのある言葉をアイラにかけてみたが、アイラは頷いた。その瞳にはまるで戦うときのような、強い意思が見てとれた。その眼差しにアレクは負けたとばかりにレヴィンとアーダンの部屋を出る。すれ違いざまにアレクに「頑張れよ」と声をかけられ、思わず振り向いたが二人の姿はどこにもなかった。

残されたのは、アーダンとアイラ。暫しの沈黙のあと、口を開いたのはアーダンだ。顔と鼻は真っ赤だ。
「ア、アイラ・・・、さっきはごめんな。俺は・・・」
「アーダン、謝らないで。謝るのは私の方だ。・・・逃げ出したりして、すまなかった」
アイラは深々と頭を下げた、それをやめさせようとアーダンは焦ってアイラは悪くないと頭を上げさせた。アイラはその気遣いが嬉しかった。
「その、逃げたのは・・・、混乱してしまって・・・けしてアーダンが嫌いで逃げ出した訳じゃないんだ」
「・・・え?」
「・・・アーダンは仲間だ。頼りがいがあって、優しくて。戦いの時だって、安心して背中を任せられる」
「そ、そうか・・・仲間か・・・」
嫌いで逃げ出した訳じゃない事が分かって嬉しかったが、仲間止まりなのか、と少しショックを隠しきれなかった。「でも、」とアイラが続けるまでは。
「・・・いつも、私の目についたのはアーダン、お前の姿だ。戦いの時も優しいところも、全て私の目の前にいたのはアーダンだ」
「・・・!じゃあ、」
「私の好きな人は、・・・アーダンだ」
今度はアイラが顔を真っ赤にする番だった。顔が熱くてたまらない。ラケシスに言われて、思い返してたまらなく嬉しかった。でも、逃げ出した事でアーダンを傷つけてしまった。もしかしたら、嫌われたかも知れない。そんな時、アーダンはアイラの頭を撫でた。それは優しい笑顔で。
「俺もアイラが大好きだ、愛してる」
「・・・私も」
「改めて、俺と付き合ってくれるか?」
「ああ、その申し出、ありがたくお受けしよう。好きだ、アーダンうわっ」
嬉しさのあまり、たまらずアーダンはアイラの体を持ち上げくるりと一回転したあと、ぎゅっと抱き締めた。まるでいとおしい者を二度と離さないとばかりに。鎧越しからでもわかるアーダンのはやい鼓動に、ああ自分と同じなんだと感じた。

「アーダン!いきなり何をする!驚いただろう」
「ははっすまん!・・・今日は最高の一日だ!大切にするからな!アイラ」
「よ、よろしく頼む・・・」

アーダンと同じように、アイラもこの日が最高の一日となった。これから好きな人と一緒にいられる幸せを期待しながら、頭の片隅で、ラケシスに何か礼をしなければと考えていた。


その部屋の外で、盗み聞きしていたアレクとレヴィンは顔を見合わせて互いに親指を立てて笑って見せたのだった。





あとがき
アーダン×アイラの告白話。
アイラが乙女になりました(笑)もっと乙女!アーダンおめでとう!
で、アレクとレヴィン、そして巻き込まれ型のノイッシュが野次馬しまくるんですね。きっとニヤニヤしまくるんですねわかります。
ラケシスとアイラは仲良かったら良いと思います。戦う王女同士。

2015/11/12   マリ

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