いなくならないで(アーダン×アイラ) 1

「ぃっ、でぇええええええ!!!」

城中にアーダンの叫び声が響き渡った。
優雅にキュアンとエスリン、ディアドラとのティータイムを楽しんでいたシグルドが驚いて茶を吹き出し、むせた。
「だ、大丈夫か?シグルド」
「げほっ・・・一体どうしたんだ?」
「今のはアーダンさんですよね・・・何かあったのでしょうか」
ディアドラも心配になって叫び声がした方を見たが心配には及びませんと落ち着き払っているのはエスリンだ。どういう事かとキュアンが首をかしげた。
「アーダンが無理をして、アイラが怒ったんでしょう、多分」
「ああ、なるほど。ならば私たちが出る幕ではないな」
「ええ、ほら『夫婦喧嘩はなんとかをも食わない』と言いますから」
「あ、あの・・・」
「心配することはないよ、さ、ディアドラ、続きを楽しもう」
「は、はい・・・」
ディアドラが少しだけ心配そうに声の発信源である方向を見たが、シグルドの言葉に従うことにした。エスリンの淹れてくれたお茶はとても美味しかった。


「アイラ!何も消毒液を傷口にぶっかけることないだろ?」
「うるさい、黙って手当てを受けろ!」
「受けろって、・・・いっで!滲みる」
「我慢しろ、このバカアーダン!」
「うっ、何もバカとまで言わなくても・・・」
「自業自得だ」
アイラが怒っている、いつもより乱暴な手当てはアーダンに対しての怒りと呆れを表していた。今回は怒りの方が大きいが、アーダンが悪かった。
「確かに、・・・まあ、うん。闘技場で無茶した俺が悪いよな・・・」
「当たり前だ」
「うっ」
事の発端は傷だらけのアーダンがアレクの肩を借りて帰ってきたのが始まりだ。闘技場で調子に乗って挑んだ相手が悪かったのか、アーダンが負傷をして負けた。と言っても、重傷ではなかったのだが。アイラはそれを聞くや否やすっ飛んでアーダンとアレクを迎えに行き、傷だらけのアーダンを見てやたら険しい顔で彼の耳を引っ張って自分の部屋に連れていった。ちなみにアレクはその場でがんばれよと合掌して逃げた。

「ホントに悪かったって、アイラ」
「じゃあなんで無茶したんだ?」
「それは、その・・・」
「私には言えないことか?」
アイラが真剣な目で見つめる。その目に黙秘権はないようで、はあ、とアーダンがぽつりと呟いた。完全にアーダンの負けだった。
「闘技場の景品が、その・・・」
「景品?そんな事で」
「アイラにプレゼントしたかったんだ。似合うだろうな・・・ってぃいっでええええ!!」
アーダンの言葉を遮って、アイラは再び傷口に消毒液をぶっかけた。その表情は・・・どこか複雑そうな顔だ。ぶっかけた消毒液をぬぐって、包帯をぎりぎりと巻き始めた。
「だからって無茶していい理由にはならない!」
「いでででで!血が止まる!」
「大体、アーダンが怪我して景品をとったとしても嬉しくない」
「うっ、すまん・・・」
「アーダンが怪我をしたと聞いてどれだけ心配したかわかるか?」
「アイラ・・・?」
「いなくなってしまう、そう思った」
言いながらアイラは手を止め、俯いた。アイラはシャナン以外の色んなものをなくしている。そしてしなくてもいい苦労もしてきた。それがどれだけの苦痛と屈辱に駆られたか。アーダンはそれを思うと自分のしたことがどれだけアイラにとって傷つくものだったか思い知らされた。
アイラはアーダンの体にくっついた。アーダンはいきなりの事に戸惑いながらもアイラから離れなかったし、アイラも離そうとはしなかった。
「アーダン、お願いだからいなくなるな」
その言葉は少しだけ震えていて、それでもはっきりと部屋に響いた。
今はどうであれ、戦いに身を置くもの同士、いつどうなるか分からない。万一の事だってある。でも、願わくば愛する人が死ぬさまは見たくない。せめて、私が生きている間はと。
アーダンを迎えに行くまでどれだけ肝を冷やしたか。アイラはアーダンを失いたくない一心ですっ飛んできたのだ。今でも心が冷えている。その時、はは、と笑い声がした。


「バカだなあ、アイラは」
「なっ・・・」

こっちはまともに心配しているのに、とカチンときたが、アーダンの優しい笑顔がそれをかき消した。そっと、ごつごつした手が片方は背中に回され、もう片方はアイラの艶のある黒髪を撫でた。

「俺がアイラを残していなくなる訳がないだろ?」

背中をぽんぽんと、まるであやす様な仕草とその言葉はアイラの心にすっと入り込んで、じわりと心を暖かく満たしてくれた。じんわりと涙を浮かべそうになるのをこらえて、抱きついている腕に力を込めた。
「・・・絶対だぞ」
「ん」
「私の傍からいなくなるな」
「ああ」
「・・・私も、アーダンから離れないから」
「ああ。ありがとうな、アイラ」

アーダンはアイラの髪を優しい手つきで撫でていた。その目は潤っている。二度とアイラを悲しませることはしないと、アーダンは固く誓った。


それは、二人が死のうとも離れない。
固い約束と願い。






あとがき
最初はアイラに消毒液をぶっかけられるアーダンを書きたかったのですが、いつの間にか展開がこんなことに(笑)
アイラはアーダンには甘えたがりだといい、アーダンはそれを受け止められるいい男だといいな、という妄想。

アーダン×アイラはいいね!美女と野獣カップル

2015/11/   マリ

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