望むもの

「童歌」

「童歌?」

「そう、赤司ならこの童歌の意味がわかると思って」


放課後に呼び出され、机を挟んで座らされた。

そして今の言葉である。

『童歌』と言われて、誰がその真意に気づくだろうか。

相変わらず話を端的に話す葛に少し呆れる。

そんな心情を知ってか知らずか、彼女は前置きをして歌い出した。


「こんな童歌なんだけどね……『アシワレ ウデワレ ハラワレ』」


旋律は少し物悲しげで、歌詞は全く意味がわからない。


「『ユビワレ ツメワレ カミワレ』」


眉根をよせた僕にお構いなく、歌い続ける。


「『鰐(わに)たて煮たし 遊びましょ
さよこ似たし 遊びましょ』」


童歌に動物が出てくるのは珍しくないが、鰐なんて初めて聞いた。


「『そこにアタシの望むもの アナタは何かわかるかしら』」

「………………………」

「『それがわかれば光が消える
アタシの望むもの 当ててくださいな』」


どうやらそれで終わりらしい。

さらっと聞いただけでは何もわからない。

とりあえず葛に歌詞を書き出してもらう。


童歌には何かしらの意味がある。

代表例は通りゃんせや、かごめ歌。

どちらも怖い意味を持つ童歌で有名だ。

そこには矛盾があったり、不自然な部分があったりする。

そしてそこが謎を解く鍵になる。


きっとこの童歌もそうなのだろう。

この歌で不自然な部分といえば……


「『鰐たて煮たし 遊びましょ
さよこ似たし 遊びましょ』か…?」


前半も意味がわからなくて、不自然といえば不自然だが前半は規則性があるから、そこは置いておく。


「全部平仮名にしてみるとか?」


葛が紙をのぞき込んできた。

その手にはシャーペンがあって、紙の余白に平仮名を書き連ねる。



わにたてにたし あそびましょ
さよこにたし あそびましょ



「『わ』に縦2たし あそびましょ
『わ』に左横2たし あそびましょ…………か?」

「『わ』に2を足すの?」

「この解釈の仕方だとそうなるな。だが『わ』に2を足す……縦、左横……」


平仮名にして少しは解読できた。

問題はその先だ。


「縦と左横って何?」

「そこがわかれば苦労しないよ。そうだな……何かの順番か……」


見落としがないか、他に手がかりはないかと歌詞を見直す。

もしかしたら旋律に手がかりがあるのだろうか?

葛にもう一度歌ってくれ、と言いかけたその時。

携帯から着信音が聞こえた。

この音は僕の携帯だな。

携帯を開けてディスプレイを見る。

その瞬間、手元にあるボタンが目に入った。


「五十音か……!!」

「五十音?」


僕は電話に出るのも忘れ、紙に五十音を書く。


「『わ』から下に二文字…左横に二文字…」

「『わ』の下は空白でそのもう一つ下がって、『わ』の左横には文字がないから、最初に戻ってカ行……」

「『そこにアタシの望むもの アナタは何かわかるかしら』…………そこにあるのは『く』だ」


だがそれが本当に正解なのか?

正解だとしたら最初の歌詞の謎はどうなる。

最初の歌詞は確か『アシワレ ウデワレ ハラワレ ユビワレ ツメワレ カミワレ』


………ずいぶんと『ワ』が多いな…


そこで僕は気づいた。

いや、気づいてしまった。


「こ、れは………」


葛は何もわかっていないようで、キョトンとしていた。

が、その顔が僕を見た瞬間、恐怖に引き攣る。


「あ、赤司……………う、しろ………!!」

「っ!?」




『アタシの望むもの……………わかっちゃった?』




ゾッと悪寒がして振り向くと、そこには頭だけの少女がいた。


『わかれば光が消える……さぁ、アタシの望むもの………くださいな?』


少女の顔が僕に近づいてきて。

葛の叫び声が耳に届いて。

逃げたいのに体が動かなくて。

もう、どうしようもなかった。

僕が少女に殺された後、葛も殺されてしまうのだろうか。

そんなことは少女の次の言葉で杞憂に終わった。



『大丈夫、謎が解けているのはアナタだけ…………安心して………?』



そして僕の意識は消えた。


























『謎が解けたら、会いに行くよ…………それとも、今すぐの方がいいのかな………?』








望むもの











ご要望がありましたので、解説を用意しました
こちらからどうぞ→赤司ホラー小説解説

皆さんは謎が解けましたか?


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