「・・・里狐(りこ)だ。よろしく」
彼はそれだけ言うと、流れるような動きで元の場所に戻った。
里狐の髪は日の光を反射して、キラキラと輝いている。
銀色のツヤのある髪がとても印象に残る。
その髪の間から覗く目は眠たそうにも見える、薄い水色の瞳。
本でも持って静かに座っていれば、それだけで絵になるような人。
「次」
里狐が短くそう言うと、次は双獅が前に出てきた。
「改めまして、双獅です。よろしくお願いします」
静かに双獅が頭を下げた。
頭を上げ、一歩下がると入れ違いで背の高い男性が前に出る。
「俺は鷹明(たかあき)だ。よろしくな、姫さん!・・・にしても、こんな可愛い姫さんなら、守りがいがあるってやつだな!」
ニカッと笑った顔は意外とあどけない。
よく焼けた肌はとても健康的な肌をしている。
目は少し鋭いが、彼の気さくな性格からか、全くトゲトゲとした印象を与えない。
「いーよなー、双獅は。姫さんに俺らより一日早く会ってんだろ?」
鷹明が双獅を振り返り、羨ましそうにそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、双獅の顔が引きつった。
「ほぅ・・・あなたがそれを言うんですか・・・私は一つ、あなたに頼みごとをしていましたよね?私より一足先に水城様の元へ行って、軽く説明をしてくるように、と」
「え!?あ、えと・・・それは・・・」
鷹明が双獅に睨まれ、顔を青くした。
「そんなことも出来ないから周りから役立たずだ、とか言われるんですよ。わかってますか?理解してます?何回言えばわかるんですか?」
「わかってる!わかってるけど、お前から頼まれたの二週間前だぞ!前日ぐらいにもう一回言われなきゃわかんねぇって!!」
少し反撃をした鷹明に、双獅はニッコリと笑いかける。
もっとも、その笑顔の後ろにはハッキリと鬼が見えるのだが・・・
「二回言われないとわからない・・・?お前は小さい子供か!いつもいつも、一回で覚えろといっているだろう!お前の頭は飾り物か!」
「んだと、オラァ!!もう一回言ってみやがれ!」
おなじみの台詞をぶつける鷹明に、双獅はもう一度、先ほどの言葉を短く、繰り返す。
「何度でも言ってやる!!お前は子供か!いつも一回で覚えろと言っているだろう!!お前の頭は飾り物か!!!」
そう叫ぶ双獅の昨日までの面影は全くない。
あれ、この人双獅?と、見間違いではないことを確認するため、水城は軽く目をこする。
残念ながら、見間違いではなかったようだ。
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