09 双獅はイケメン

「一応、出掛ける準備はできたけど・・・呼んでくださいって・・・どうやって?」

身支度を整えた水城は部屋の中をうろうろとしていた。

「いっそ・・・大声で呼んでみる、とか?いや、でもそれは恥ずかしいな・・・」

双獅は人ではないと言っていたが、小さな声でも聞こえるのだろうか。

そう思いながら、窓を開ける。

窓から顔だけを覗かせ、尋ねる様に呼んだ。

「双獅・・・?」

そう呼んで数秒が経ったが、双獅は現れなかった。

当たり前か、こんなに小さな声、聞こえるわけないよね。

そう思って、窓を閉めようとした時。

窓の真下から声をかけられた。

『お待たせしました』

双獅の声がして、下を見ると、そこには黒猫―・・・双獅がいた。

「え?今ので聞こえたの?」

『えぇ、もちろんです。主の声を聞き逃すことなどあり得ませんよ。ですが、少し遠出をしていまして、来るのが遅くなってしまいました』

「どこまで行ってたの?」

『水城様の通っていらっしゃる学校まで足を運んでいました』

「そんな遠くまで!?っていうか、何で学校まで?」

とりあえず、双獅を部屋の中に入れようと、水城は手を伸ばした。

双獅をそっと抱き上げ、部屋の中に入れて窓を閉める。

『水城様が妖に襲われる前に結界を、と思いまして。私は学校に行くわけにはいきませんから』

それだけ言うと、ドアへと歩いていく。

『せて、出掛けましょうか』

その言葉に水城は頷いた。



「でもさ、学校から数秒で来るって・・・早いよね」

「そうですか?足には多少自信がありますが・・・」

そう話す双獅は人の姿に戻っている。

しかも、服が現代に合わせた落ち着いた服になっている。

そして何より。

水城以外にもその姿が見えている。

朝、家を出たとき、人の姿に戻ると言って、戻った姿がこれだ。

顔や髪など、服以外の外見は全く変化していないため、ただ道を歩いていると、いい意味で目立つ。

水城は自分の隣を歩いている双獅をそっと見上げる。

涼しそうな目元に、すっきりとした鼻筋、きめ細かい肌は白すぎず、黒すぎず、どちらかと言えば白いほうで。

絹糸を思わせる艶めいた髪は少しでも風が吹くと、サラサラと音を立てて流れる。

ただ歩いているだけで、こんなにも色気が出るのはズルイと思う。

そんな容姿に加え、あの性格だ。

外を歩いているだけでも、乙女心を掴んで放さないのに、性格までバレたら、一緒に歩いているこっちがいい迷惑だ。

双獅を見ながら、あれこれと考えていた水城だが、双獅の黒髪に目を止めた。

サラサラと風に流される黒髪は水城の髪とよく似ている。

その時、ズキッと頭に軽い痛みが走った。

それと同時に頭の中に幼い子供の声が響く。

『とても綺麗な髪をしているね』







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