「一応、出掛ける準備はできたけど・・・呼んでくださいって・・・どうやって?」
身支度を整えた水城は部屋の中をうろうろとしていた。
「いっそ・・・大声で呼んでみる、とか?いや、でもそれは恥ずかしいな・・・」
双獅は人ではないと言っていたが、小さな声でも聞こえるのだろうか。
そう思いながら、窓を開ける。
窓から顔だけを覗かせ、尋ねる様に呼んだ。
「双獅・・・?」
そう呼んで数秒が経ったが、双獅は現れなかった。
当たり前か、こんなに小さな声、聞こえるわけないよね。
そう思って、窓を閉めようとした時。
窓の真下から声をかけられた。
『お待たせしました』
双獅の声がして、下を見ると、そこには黒猫―・・・双獅がいた。
「え?今ので聞こえたの?」
『えぇ、もちろんです。主の声を聞き逃すことなどあり得ませんよ。ですが、少し遠出をしていまして、来るのが遅くなってしまいました』
「どこまで行ってたの?」
『水城様の通っていらっしゃる学校まで足を運んでいました』
「そんな遠くまで!?っていうか、何で学校まで?」
とりあえず、双獅を部屋の中に入れようと、水城は手を伸ばした。
双獅をそっと抱き上げ、部屋の中に入れて窓を閉める。
『水城様が妖に襲われる前に結界を、と思いまして。私は学校に行くわけにはいきませんから』
それだけ言うと、ドアへと歩いていく。
『せて、出掛けましょうか』
その言葉に水城は頷いた。
「でもさ、学校から数秒で来るって・・・早いよね」
「そうですか?足には多少自信がありますが・・・」
そう話す双獅は人の姿に戻っている。
しかも、服が現代に合わせた落ち着いた服になっている。
そして何より。
水城以外にもその姿が見えている。
朝、家を出たとき、人の姿に戻ると言って、戻った姿がこれだ。
顔や髪など、服以外の外見は全く変化していないため、ただ道を歩いていると、いい意味で目立つ。
水城は自分の隣を歩いている双獅をそっと見上げる。
涼しそうな目元に、すっきりとした鼻筋、きめ細かい肌は白すぎず、黒すぎず、どちらかと言えば白いほうで。
絹糸を思わせる艶めいた髪は少しでも風が吹くと、サラサラと音を立てて流れる。
ただ歩いているだけで、こんなにも色気が出るのはズルイと思う。
そんな容姿に加え、あの性格だ。
外を歩いているだけでも、乙女心を掴んで放さないのに、性格までバレたら、一緒に歩いているこっちがいい迷惑だ。
双獅を見ながら、あれこれと考えていた水城だが、双獅の黒髪に目を止めた。
サラサラと風に流される黒髪は水城の髪とよく似ている。
その時、ズキッと頭に軽い痛みが走った。
それと同時に頭の中に幼い子供の声が響く。
『とても綺麗な髪をしているね』
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