07 薄桃色の気持ち


『・・・あの者たちを水城様に会わせるのか。・・・多少、気が引ける。私が居なくてもしっかりとやってくれていればいいのだが・・・』



水城の足音が聞こえなくなってから、双獅はそう呟き、大きなため息をついた。


「双獅、ごめんね。お風呂も入ってたから遅くなっちゃった」

水城が誤りながら、部屋のドアを開けると双獅がテーブルの下から顔を出した。

『私のことはお気になさらないでください。それよりも、今日は早めに布団に入ってはいかがでしょう?色々なこともあり、疲れていらっしゃると思います』

のそのそとテーブルの下から出てきた双獅は、水城の足元で水城を見上げている。

「うん。そうだね」

水城は双獅の頭を軽く撫でて、布団へと向かった。

『水城様、一つ、よろしいですか?』

双獅が改まって水城に声をかける。

「ん?どうしたの?」

『水城様は、とても強い霊力をお持ちです。そのため妖(あやかし)というもの達に命を狙われやすいのです。明日、水城様を妖から守護する、守護精、という者達に会っていただきます。先ほども言いましたが、個性が強い人たちなので、引かないであげてくださいね』

「さっきも思ったけど・・・妖って妖怪のこと?」

『そうです。そして、守護精というのは水城様が神になられるまで、水城様を守護する者です。町外れの森に集合をかけています。明日はそこへ向かいましょう』

「うん。わかった。・・・でも、守護精って何人いるの?まさか十人以上?」

水城の言葉に、双獅はフッと軽く口元を緩ませた。

守護精という単語にどんな者達を想像したのだろうか。

双獅に聞き返す水城の顔は不安の一色で染まっていた。

『ご心配なく。守護精は五人です。それに、個性は強いですが、皆心優しい者ばかりです。そして、全員が水城様に忠誠を誓っています』

「そっか、怖そうな人、想像しちゃったよ」

『大丈夫ですよ。多少、いえ、かなり癖は強いですが・・・心配することはありません』

「・・・双獅がそう言うなら大丈夫だね。じゃ、もう寝よう」

えぇ、おやすみなさい、そう言った双獅の体がフワリと宙に浮く。

『っ!水城様!?何を・・・』

気が付くと双獅は水城の腕の中にいた。

水城に抱えられたままの双獅が反抗の声をあげる。

「え?だって双獅、床で寝るつもりでしょ?もう冬だし、私も寒いから一緒に寝たら暖かいかなって思って」

水城は双獅を抱え、布団の中に入ってしまった。

双獅は主人に強く逆らうことができずに、されるがままになっている。

水城は双獅を胸に抱いたまま目をつぶる。

しばらくすると、双獅の頭の上から規則正しい寝息が聞こえてきた。

(私の気もしらないで・・・私だって一応、男ですからね?)

少し寝苦しくなり、一度、布団の中で人型に戻った双獅だったが、目の前の無防備な水城を見ていると、自分が押さえられなくなりそうだったので急いで黒猫の姿に戻った。

(はぁ・・・長い夜になりそうですね・・・)

双獅は水城に抱かれたまま、一晩中、自分の中の薄桃色の気持ちと戦っていたらしい。






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