「神代家の中で霊力を持って生まれてくる者とそうでない者がいます。水鈴様や水城様は霊力を持っておいでなのです。特に水城様はとても大きな霊力をお持ちなのですよ」
「私が?」
ポカンと口を開いた水城。
今まで、霊力があるなんて知らなかった。
今でも半信半疑だが。
「はい。ですが、まだその力は全く開花していないようですね」
「私ってそんなに霊力、あるんだ」
そう聞かされても、実感なんてすぐに湧くわけなくて。
へー、と何処か他人事のように思っていた。
「あ、あと一つ。父さんや母さんはこのこと知ってるの?」
「・・・・・・」
水城がそう問うと、先ほどのようにスラスラとは答えてはくれなかった。
「・・・水城様。残念ですが、あなたが神になられることは誰にも話してはならないのです」
「じゃぁ、私はお婆ちゃんみたいに、死んだことになる・・・の?」
「それだけは我慢してください。神になった者は全てそうしてきました。例外は認められないのです。申し訳ありません」
双獅が悪いわけではないのに、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
水城はそっか、と悲しそうに呟いた。
「双獅さん・・・あ。双獅のせいじゃないんだから謝らないでよ」
それよりさ、と水城は無理矢理話を変えた。
「私は何の神様になるの?」
「水城様は龍神の役目を果たしていただきます」
龍神、と言われて、水城は青い龍を思い浮かべた。
「龍神ってあの水の神様の?」
「はい。水を司る神です。竜神とも呼ばれていますが、龍神の名前の方がよくご存知でしょう。この神社にも龍神様が祭られているでしょう?」
「あの湖の中心にある小さな社が龍神様の社なの?」
水那司神社の奥には大きな湖がある。
その中心に小さな、だが立派な社がある。
その社に龍神が祭られているのだという。
ところで、と双獅が急に話を切り替えてきた。
「水城様、猫はお好きですか?」
「好きだけど・・・どうして?」
水城が不思議そうな顔をして双獅に聞き返すと、双獅はよかった、と安心した。
「四六時中この姿で一緒、というわけにも参りませんので、私はこれから黒猫の姿で生活いたします」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
双獅の急な言葉に頭の中を真っ白にしてしまった水城。
微笑みを顔に残したまま、静かに水城の次の言葉を待つ双獅。
しばらく、二人の間に微妙な沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは水城だった。
「え・・・四六時中ってことは、ココに住むの?」
「えぇ、もちろん。猫として、ですけど」
猫としてならいいか、と納得しかけた水城だが、ある疑問が頭の中に浮かんできた。
「さっきから猫、猫、って言ってるけど、それって双獅が猫になるんだよね」
「もちろんです」
そう言った瞬間、双獅の体がポンッと音を立てて黒猫に変化した。
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