火の聲 3






「こんな時間でも意外と人は居るもんだな・・・」

集会場の中に入ると、見慣れた顔はないものの、それなりの人数が集まっていた。
まだ朝早い時間だから、今いるハンター達の半分くらいは夜の狩りを楽しんできた帰りなのだろう。
ドサッ、と長椅子のはじっこに腰掛ける。
「・・・なんか久しぶりだな。」
猟団のメンバーが誰もいない時間に此処に居るのも、この格好で此処に来たのも。

暇潰しにテーブルの端に吊るされていた紙の束をペラペラと捲っていると、先日行った森丘で怪力の種がポーチに入れっぱなしだった事に気がついた。
(アレは芽が出ると植えるしかなくなるからな・・・)
ごそ
取り出してみた赤く丸い種は、まだ芽吹いてはいないようだったが、
「ん?」
その代わりに、何か赤い破片が突き刺さっていた。

「赤い鱗・・・・・・」
すっかり忘れていたが、この鱗は自分が倒れる前に拾ったものだった。
「・・・森丘でも行くか。」

なんだか赤いものがよく目に留まるなと不思議に思いながら席を立ち、依頼の手続きをしにカウンターへと向かった。

(下位、上位、G級・・・下位でいいか。)
何気なく、開け放された扉から外を見やると、まだあまり高くない位置に居る太陽は精一杯仕事をしていた。
爽やかな朝の風景になにか物足りなさを感じたが、一番出口に近い所に居るはずのギルドマネージャーがまだ来ていない所為らしかった。

「おはようございまーす。」
「あらNobutunaさんじゃないの。久しぶりねぇ。」
コロコロと鈴を転がすような声で受付嬢が話す。

「ちょっと体調崩しててな。森丘の素材ツアーを頼む。」
「元気な時でもG級ばっかりのクセに。ホント、下位なんて久しぶりでしょう?」
たわいもない話をしていると、目の前に名ばかりの契約書が差し出され、一通り目を通してから署名する。
(報酬12z・・・ホント、いつ見ても笑える数字だよな。)
雀の涙とはよく言ったものだ。

「はい。それでは気を付けて行ってらっしゃい・・・と、言いたいところなんだけどね。」
「?なんだ、こんな時間にネコタク全部出払っちゃってるのか?」
「まさか。」
ここで待ってれば分かるわよ、と意味深な笑みを浮かべている美人さんに、はぁ、と呟くしか無かった。
まぁ別に急ぐわけでもないしと自分を納得させるように呟くと、先程座っていた席へと戻り、広げっぱなしにしていた紙の束をテーブルの端に掛けなおしておいた。


―――そして待つこと二時間半。

「・・・・・・」
朝食にと注文したヘブンブレッドのサンドイッチとシモフリトマトのサラダは見る影もなく、酒でも頼もうかと思ったが、友達感覚で接してくれると評判のいい給仕係は耳が早いらしく、「ダメです。」といい笑顔で断られた。
それに加えて、公共の建物の中で煙草を吹かすほど神経は太くないので、Nobutunaは段々とイライラしてきていた。

「もう出発してもいいよな・・・」
時間の無駄だ、と言いながら立ち上がると、ゴンと頭を打った。
「まだだめですよー」
「・・・・・・・・・何の用だ。Sky。」
頭を押さえ、不機嫌丸出しのNobutunaとは対象的なSkyの笑顔がそこにあった。

「何の用だとはヒドイ言い方ですねー。」
頭突きを繰り出された顎はそんなに痛まないのか、ケラケラと笑いながら喋る後輩に、もっと勢いをつけて立ち上がればよかったなと後悔する。
「それにしても何だか久しぶりですね、先輩のその格好。」
まぁ、座ってくださいよ、と勧められたのでもう一度座り直す。
「随分間が空いたからな・・・これから肩慣らしに森丘行ってこようと思ってるんだが。」
「採集ですか?」
「そう。」

コト、と小さな音を立ててコップが置かれた。

「これ・・・」
中身からは甘い匂いがする。

「りんごジュースですよ。」
「絞りたてか?」
「そっちのほうが良かったですか?」
結構だ、とピシャリと言い放つとSkyはあからさまにガッカリして見せた。

「何日も引き篭ってたから皆心配してましたけど、問題なさそうですね。」
元気そうで何よりですと付け足された言葉は本心らしいが、引き篭るという表現が気に食わなかった。
文句を言わない代わりに小さく溜息をついて一言
「ご心配をおかけしましたー」

「「「ホントだよっ。」」」

「でぇっ!」
棒読みで謝罪の言葉を述べると、見事に重なった三人分の声と二人分の拳が頭に落ちた。
「遅かったですね。」
「jackとFaltがさ、Nobutunaが部屋から消えたって騒ぎ出してな。」
俺はそのついでに叩き起されたんだよ、と遅刻魔がぼやく。

「まさかこんな早くに集会場に来てるとは思わなくって、あちこち探してたんだよ。」
「そーゆーこと。こんな時間に居るとかNobuちゃん凄い早起きだったんだね。」
「早起きってFaltお前、今何時だと思ってるんだ?」
「最初に騒ぎ出した社長には言われたくないなぁ。ちなみにもうすぐお昼です。」

騒がしいことこの上ない五人は、好きなように空いている席に座っていくと、朝食(?)の注文をしだした。
「おいコラお前ら。何普通に飯注文してんだ。」
「いきなりなんだよ、Nobutuna。」
「黙れ厨二。」
「機嫌悪っ。」
怒られたと感じたのか、Ashはそのまま大人しくなった。

「ところで、さっき俺に拳骨食らわせたのはどいつだ?」

「「はい。」」

揃った返事と挙手で答えたのはBillyとSEVEN。
「正直でよろしい。で、何か俺に言うことが有るんじゃないか?」
?と顔を見合わせた二人は、次の瞬間にはこちらに目を向け、

「「ホントだよっ。」」
「違うわ!」

何故そんなに見事に揃うのか・・・不思議だ。

「りんごジュースですよ。」
「何、Billyお前、その時から居たの?」
「ディアブロス行こうか!」
「無理だ。帰れ。」
「Rikuなら農場だよ。」
「そうか、でもそれも違う!」
「Mr.は猫と戯れてるよ。」
「想像できるからその情報はいらない。砂漠に還れ。」
「息切れしてるね。」
「寝てただけの人間がこれだけ喋りゃな・・・それも違う。」
「拳骨してごめんなちゃい。」
「正解!但し誠意が無い。誠意が!」
ゴン、と二人に一発ずつ仕返しをする。

座り直して、残り少ないりんごジュースを飲み干す。
「あー・・・何で狩り行く前にこんなに疲れなきゃならないんだよ。」
「お疲れ様。」
「何か凄いカオスな会話だったねぇ。」
「そこの二人もいきなり出てくるな。りんごジュース吹いたらどうしてくれる。」
さっきまで(笑い袋とはいえ少人数の時はそんなに煩くない)Skyと二人だったのに、一気に9人が集合した。

急速に騒がしくなった周囲に、普段通りに戻ったことを感じたが、そろそろ黙らせたほうがいいだろうか。
そんな時、Faltの茄子色の仮面が目の前で喋り出した。
「それにしても、かなり疲れてたんだね。何もしないで6日も休み続けたんだから。」
「6日?そんなに経ったのか?」
寝てるのか起きてるのか、自分でもよくわからないままだったとは思っていたけれど、6日という数字に愕然とする。
「そうだよ?何、日付の感覚まで狂っちゃったの?」
そんなんで大丈夫なのーと半笑いで聞いてくる声に問題ねぇよと答えたけれど、正直、自分自身が一体どういう状態なのか分からなくなってきていた。




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