「なぁラピュるって何?」

 あまりの事に唖然としているのは紗衣だけで、大和は慣れているのかどうでもいい質問をする。
 
「飛行船から落ちたシータをパズーが見つける名シーンの事に決まってるでしょ」
「ああラピュタね。ていうか倖は自力で着地したけどな」

 カチリとタバコに火を点ける。
 大和は平然としているが、どう考えても和真と倖は、建物の屋上から飛び降りていて、それは更にどう頭を捻っても人間技ではない。
 
「いや、うん。心強い味方だって思えばいいんだわ、常識なんてこの際ナイル川に捨ててやる」
「何故日本の川じゃ駄目なんだろう」
「別に何も考えてないだけでしょ」
「はい、スケさんカクさんうるさいよー!」

 椿の言う通り適当に言った事なので、拾われると恥ずかしい。
 
「じゃれてる場合じゃないんじゃないの? 香苗ちゃん助けないと、だよね?」
「そうだそうだ。せっかく俺等が手ぇ貸してやろうってんだから、さっさと血祭りにあげてやろうぜ」

 助ける、手を貸すなどと慈善的な台詞を出すわりに、倖と和真の瞳は好戦的にぎらぎらとしている。
 
「似すぎだわあんた達兄妹……」

 そして怖過ぎる。
 
 人間離れした身体能力は、そのまま桁違いの実力を有している事に繋がる。
 一騎当千とでも言おうか。
 この二人がいれば百人力だ。
 
 だが欠点をあげるとするならば、一度戦闘モードに入ってしまうと誰にも止められない狂戦士じみたところだろうか。
 
「南は数だけは半端じゃなく多いからな。雑魚はオレ等で始末しとくよ」
「うんお願い」

 東西南北に別れる不良チームは、それぞれ独特のチームカラーがあって。
 南はさほど強くはないものの、人数規模で言えばダントツだ。
 
 それをたった三人に任せようとしている。
 平気で頼めてしまうのも、心配に思ったりしないのも、この三人だから。
 
「じゃあ和真、どっちのが多くヤるか勝負しようよ!」
「ああん? 俺が負けっかよ、ばぁか」

 妹に対して偉そうな口ぶりの和真だが、くしゃくしゃと髪をかき回す手つきも、彼女を見やる目も柔らかい。
 
 それだけを見ていれば実に微笑ましい兄妹の絵だ。
 
「でもヤるが殺るにしか聞こえないよ椿ちゃん……」
「間違ってないかと」

 会話自体はどこまでもこの世界の兄妹なのだった。
 
 


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