無意味に折りたたみ式の携帯電話の開閉を繰り返す。
 苛立ちのせいで、ただ立って人を待つその時間が耐えられない。
 
 落ち着けとばかりに椿が紗衣に声を掛ける。
 
「気が気じゃないならアイツ等待ってないで先に行けばいいじゃないですか、と言いたい所ですが紗衣が単身で南に行ったって役立たずどころか足手まといなだけですもんね」

 気遣わしげな表情と全く真逆の、攻撃的な言葉。
 
「やめろ椿。本当の事を言ったら紗衣が傷つく」
「環っちゃんのせいで二倍ハートが引き裂かれたわ!!」

 投げつけた携帯は、丁寧に環が受け取ってもう一度紗衣に返す。
 彼は素直で従順なだけなのだ。
 
「あーやってるやってる。お前らいっつもそんなんだなぁ」

 バイクに跨ったまま操縦主が、ヘルメットを脱ぎながら肩を揺らして笑う。
 
「大和遅いっ!」
 
 吐き捨てた紗衣の険のある態度でも大和は可笑しそうだ。
 彼女の気が立っている理由は分かっている。
 
「お前の妹に生まれた宿命だわなー」
「わたしのせいみたいに言うな馬鹿!」
「どーじまさーん!」
「はん!?」

 大和に噛みつこうとしたところで名前を呼ばれ、振り返った紗衣だったがそこにいたのは環と椿だけ。
 
 一体どこから!? そう思った瞬間
 
 ダァン!
 
 地面に叩きつける大きな物音。
 
 紗衣の目の前に降ってきたのは少女だった。
 比喩などではなく、少女は正しくたった今空から落ちてきたのだ。
 
 ふわりと長い髪を揺らす、中学の制服を着込んだ少女は異常な登場の仕方をしたというのに、何でもないように紗衣に手を振る。
 
 四階建ての建物の脇に紗衣達はいて、見上げても人がジャンプして降りてこられそうな場所は存在しない。

「倖ちゃんあなた何処からラピュったの?」
「じゃぁまーっ!」
「きゃぁぁー!!」

 少女が紗衣の問いに答える前に、上から大声を浴びせられた。
 振り仰いだ先に人がいるのを認識した途端、条件反射で叫んだ。
 
 咄嗟に環が紗衣の腕を引いて移動させれば、一瞬前まで彼女がいたちょうどその場所に、またしても人が着地した。
 
「和真!」

 ぱぁと倖(ゆき)の表情が明るくなる。
 和真も倖の姿を認めると普段は刺々しい雰囲気を一変させた。
 


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