▼さあ全員集合 とあるバーの一角で、その場にそぐわない筈の制服姿の女子高校生が机に突っ伏して項垂れていた。 見事に空気に馴染んでいるからなのか、悲壮な雰囲気を漂わせている少女に関わりたくないからか、数多くいる客達は顔見知り同士であるというのに誰一人として声を掛けようとしない。 たまに携帯電話のディスプレイを眺めては遠い目をしている紗衣の傍らに、確かにさっきまではいなかったはずの男女の二人組が立っているのに気づいたのは僅かだ。 「いつまでやってんですか」 テーブルに腰かけて紗衣の携帯を一緒になって覗きこんだ椿。 そんな妹を諌めるように睨んだ環。 だが彼もまた同じように小さな画面をちらりと見やった。 「だって早くおうち帰りたいんだものー」 溜め息を吐きながら時間を確認しても数分と経っていない事実に更にはぁと肺から空気を押し出した。 「えーなになに、紗衣ちゃんったらオレというものがありながら、家に帰りを待ってる奴でもいんの? 罪作りな子だなぁ」 「やっと現れて何言ってんですか……と言いたい所ですが全くもってその通りなので、さっさと用件伝えてわたしを解放してくださいキリさん」 予想外の答えにきょとんとするのは桐原だ。 自分の都合で紗衣を呼び出すのは日常茶飯事で、これまでの彼女の反応は至って同じだった。 けれど今日に限っては違う。 帰りを待ってる奴なんて冗談で言っただけだったのに、どういう事だろう。 先ほどからずっと気にしている携帯が怪しいと取り上げようとすれば、察知した紗衣がポケットにそれを隠した。 「オレに知られたくない奴なん? まっさか須藤なんてオチじゃあねぇよな」 「はぁ!? 帰ったら家に夜の帝王(笑)がいるとか恐ろしい冗談やめてくださいよ!!」 「恐ろしいとか思ってないでだろ、カッコ笑いって絶対怖がってないよな。まぁいいか違うなら」 顔を合わせても合わせなくても、常にいがみ合っている相手の名前を速攻で跳ね除けたのが可笑しくて桐原は破顔する。 「見てくださいよ、このあどけなく笑う可愛らしい子! このいつもは全然わがまま言わない子が! 『お姉ちゃん今日は早く帰ってきてね』って……お願いしたのですよ、分かる分かります!?」 「うんうんお姉ちゃんって甘美な響きだよねぇ」 「違うけど違わない!!」 つまり、携帯の待ち受けにされている写真は彼女の妹のもので、家にいるのも当然ながらその妹だという。 「しっかし顔のパーツそっくりだな」 紗衣をそのまま小さくしたような少女に感心したように呟いた。 「もしかしなくても紗衣ちゃんってシスコン?」 「重度の」 答えたのは無表情の椿。 「ふぅん目の付け所は間違えてなかったって事か。これなら見つけやすかっただろうしな」 思案気に細められた目は、もうどこにもふざけた色を宿してはいなかった。 けれど、にんまりと桐原は笑みを浮かべ。 「この妹ちゃんが南に拉致られたよ」 前 | 次 戻 |