「俺が、なんだって?」

 振動で舞った埃を手にしていた長い鉄の棒で振り払う。

「悪役が様になってるわね、和真くん。……そんな物騒なもんで私の環を痛めつけないでもらえるかしら」
「遅刻した罰だろ?」
「時間を指定された覚えはないけど」
「俺がここに来た時にまだあんた等がいなかった」

 なんという無茶な口ぶりだろうか。
 紗衣は頭を抱えた。

 和真と大和は最近になってこの夜の街に顔を出すようになった、所謂新参者で。
 けれどもその強さは群を抜いており、あっという間に名は知れ渡った。

 ある所は取り込もうと、ある所は消そうと近づいても尽く実力行使をもって追い返される現状。

 今はまだ二人で好き勝手をしているばかりだが、そのうちに彼等の元に何人もの人間が集まり始めるだろう。
 そう見越して紗衣も近づいた。

 強さはこの通り。環でさえも油断すれば一瞬でやられるほどだ。
 大和はまだしも和真は言葉が通じない節がある。

「俺様は須藤さん一人で十分だっつーの」

 環に手を貸して起き上がらせている椿に目をやる。
 全く、どうして誰も彼もこんなにも血の気が多いのか。

「なー堂島さん俺も台詞無かったんだけど」
「二人してこだわるなぁ、言ってみなさい」

 打ち合わせでもしていたのかもしれない。
 和真少し長めの横髪を耳に掛けながら艶やかに笑う。

「ザキンでシースー」

 言ってやったぜ、と和真と大和は親指を立てた手を翳し合った。

「だから意味分かんないのよ、まさかそんなの聞かせるためにわざわざ呼んだんじゃないでしょうね!? 環やられ損もいい所じゃない!」
「もしそうなら……」

 静かに椿が手に持ったものを皆に見せた。

 女である椿の、それほど大きくない手の平に収まってしまう筒状のものだ。
 天辺に親指が添えられている事から、そこを押すように出来ているのだと知れる。

「このスイッチを押して表に置いてあるバイクを爆破します」
「でかした椿!」

 本気であるのか否かは紗衣にも推し量れなかった。
 はったりだと思われるが、如何せん彼女の性格を考えれば絶対にやらないとも言い切れない。
 そんな知識を有しているのだって、妙に納得させられてしまうような人なのだ。

「おーい、そりゃ卑怯ってもんだろうが」
「背後から襲っておいてよく言うわ。ほら今のうちに環、顔変形するくらいボッコボコにしといたら?」
「堂島ひでぇ奴だな」

 がばりと後ろから大和に抱きつかれて紗衣は小さく悲鳴を上げた。

 祭壇に座っていたはずの大和が移動していた事に全く気付かなかった。

 煙草独特の匂いに顔を歪める。

「いや……やめて……私に触れるならファブリーズの海に飛び込んだ後にして」
「それどこにあんの?」
「自分で探せバーカ! ちょっと和真くんこの変態どうにかしてー、匂いと共に変態まで移っちゃいそうで……て」

 大和が邪魔で動かない体を目一杯捻って見た光景に開いた口が塞がらない。

「ははははっ!」

 和真は高笑いしながら、環・椿の兄妹と格闘を繰り広げていたのだ。



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