いつもより遅い時間に寮に戻ってくれば、それだけで何だか疲れたような気がしてくる。
 
「たーだいまぁ」
 
 ああ、サラリーマンが一日仕事を終えてぐったりしながら家の玄関を開ける気分が分かったような。
 返事はない。
 まったく。こっちは必死で働いてきたってのに、出迎えもないってのか! なんつって。
 稔に甲斐甲斐しく出迎えられてもちょっと気味悪いよね。
 そんなん私じゃなくて、誰かイケメンにやってろって感じです。
 私だってどっちかと言えば、やる側に立ちたい人だからね。
 
 靴を脱いでリビングまで行くと、私は一瞬息を詰まらせ、くるりと踵を返した。

 何でテーブルを囲んで稔の他に時芽と基までいるの!?
 
「はい、カナくん逃げないのー」

 ビクゥッ
 時芽の若干刺々しい言い方に、悲しいかな気の小さい私が逆らえるはずもない。
 テーブルの一角にちょこりと座る。
 
「カナくん僕達に言う事あるでしょ?」
「もうっしわけございませんでしたーっ!!」

 テーブルにゴンと額ぶつける勢いで頭を下げる。
 だって怖いもん! 時芽の目が笑ってないもん! 細すぎて見えないけど絶対怒りを湛えてるはず。
 
「一時の感情に流されてとんでもない発言をしてしまいました。ワタクシめをどうかお許しください!」

 プライド? 何それ美味しいの?
 私は苛められて喜ぶ性質じゃない。正直に謝る方を選びます。
 
「もういいじゃんトッキー。カナちゃん泣きそうだよぉ」
 
 がばぁと横から基に抱きつかれた。
 庇ってくれるのは嬉しいんだけど、基笑ってるね。全然可哀相だとか思ってないだろ。
 まぁいいや。お母さん的ポジションらしい基にフォローしてもらおう。
 
 「泣かせたいんだよー」とか時芽が恐ろしい事呟いてるけど、聞こえない聞こえない。
 
「でも面倒臭いもん押し付けてくれたもんだな」

 お茶を飲みながら言う稔に言葉を詰まらせた。
 
「……ごめん、だって一人で寂しかったんだよ。三人で放課後仲良くしてるの見ながら一人で委員会とか絶対嫌だったもん」
「そうだよねぇ、カナくん寂しいと死んじゃうもんね」
「オレはウサギか!」
 
 死にはしないけど、確かにやさぐれまくってはいただろう。考えただけで二学期乗り越えられる気がしない。

「つうかいい加減離れたら」

 稔が基の襟首をぐいと掴んで離してくれた。
 最近はたまに気付いたように稔がこうやって基を制してくれる。
 
「堂島……お前ちょっとは危機感持てよ……」

 と二学期入ってすぐに呆れられたりもした。女だってバレたら拙いんだろ? って。
 
 いやぁ、そういうのはもう一学期の時点で過ぎたっていうか。慣れすぎちゃって今更感がハンパないというか。
 
 一切バレる兆しがないのは稔にも分かっている事だから、彼もそこまで深刻には捉えていないようだけれど。
 
 ね! ほらいい具合に稔が私の尻拭いというか、面倒を見てくれているでしょう。さすがだね!
 
「しゃーないなぁ、カナくん貸し一だからね」

 ポンポンと時芽が頭を軽く叩く。
 
 ありがとうお父さん!
 何だかんだで最終的に折れてくれる時芽お父さんが私は大好きだよ!
 
 


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