▼2 「あいつ等はこの先だよ」 偵察から戻って来たというショカさんが指したのは雑居ビルが建ち並ぶ通りの路地だった。 北さんは別所にたむろしてる奴等を蹴散らしている最中だそうだ。 「さてじゃあ面子も揃った事だし行きますかね」 一つ伸びをした東さんは、ちょいとそこまでコンビニへ、という程の軽さで言ってのけた。 当然のように私もその面子の中に入れるのはやめてほしいね。 強い知り合いに囲まれてる安心感はあるけど、基本的に私ビビリなんだから! 女の子なんだから! というか。 「こんな豪華キャストで迎え撃たなきゃならないくらいの相手なんですか?」 こんだけのメンバーそうそう集まらないよ? 仲悪くは無いけど、やっぱ他チームの人と一緒に行動するほどフレンドリーな不良ってのはいない。 特に東さんと西さんが仲良しならさ、端から二チームに別れてないって話で。 それに一人ずつでも周りから恐れ一部から崇拝されちゃう人達ばっか。 なんかもう万全って感じ。 「あぁー……いや、そういうわけじゃねぇけど」 「もう二度とつまらない真似する気起きないくらいにボコっておこうかなって」 ふふ、と微笑みながらさり気なくとんでもない事を説明してくれるショカさん。 ボコる? ボコって言った? 何それペコちゃん的なあれの事? ショカさんの口からボコるとかさ、あまりに似合わなさ過ぎてどういう意味だったか分かんなくなりそう。 「他の奴等の見せしめにもなるしな」 こちらはいつも通り、獰猛に笑む西さん。 どこの任侠映画から飛び出してきたんだこの人はもう! 本当怖い。 おまんら全員許さんぜよ! あ、間違った。 「それで、ウタも必要だったんですね」 北さんは今頃楽しんで乱闘に興じているだろう。多分呼んでも戻ってこない。普段は厳しい人だけど一端はっちゃけると自制心飛ぶらしいから。 彼の代わりがウタだという事か。 「しょゆことー」 「あっは、東さんウッゼェ」 「カナ……ますます姉ちゃんに似てきたな……」 そんな寂しそうな目で見るんじゃないやい。いい年した男が全く。 そこからの行動は迅速だった。 路地裏を抜けるとちょっと開けた平地があって、その場に溜まっていたいかにもな不良共が数名。 そんなに人数はいなかった。殆んどが北さんの所に行っているんだろう。 顔を見ただけてこちらのメンバーの豪華さに気付いた相手さん達は怯み、その隙を見てほぼウタが一人で全員を蹴散らしてしまった。 実写版の北斗の拳はウタがやればいいと思うよ。 私は呑気にかなり後方で待機しながら、本来の目的であった不良攻めと不良受けについて脳内で真剣に論じていた。 そしてやはり、総長×ビビリ平凡は鉄板であり欠かす事の出来ないジャンルであるという結論が出掛かった時 「んぐっ!」 後ろから伸びてきた手に口を塞がれ、抱き込まれるようにして体の自由を奪われた。 「動くな!」 私を拘束している人がそう言うと、全員が一斉にこちらを向いた。 みんなが目を見開いている中、西さんだけが眉間に皺を寄せて盛大に舌打ちしている。 怖いから、マジで。やめてください、謝るから! 西さんに対する恐怖している間も、私の耳に残った「動くな」という声。 たった一言だけだったけど、嫌な予感に心臓がドクドクする。 聞き間違えでは、ないと思う。 口を押さえている手が汗ばんでいて、とても緊張しているのが分かる。 対峙している相手が相手だ、当然だろう。 だけど、だけど何でこんなとこに居るの――稔! 前 | 次 戻 |