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「香苗はずっと何処行ってたんだ? どうしてオレんとこ来なかった?」
「え、何処ってそりゃぁ学校に。遠いとこだからここには来れなかったんだよ」
「遠い? お前あの女子校じゃなかったのか」

 しまったぁー!!
 受けると公言していた女子校は家の近所だ。
 目敏い西さんのツッコミに冷や汗が流れる。
 
 他の誰よりも西さんには気付かれちゃいけないのに。
 少しの糸口も見せちゃいけない、のに。
 
「西峨さん!!」

 地味に焦る私を助けてくれた天の声は、耳が痛くなるくらいの大音量で西さんの名前を呼んだ。
 
 あれデジャブ。ものっすごい聞き覚えのある声だ。
 
「西峨さん大変です! 南が、て、あ、おおおぉああああぁぁ!!」
「ううぅわああぁぁ!!」
「うるせぇ!」
 
 西さんの一喝で私ともう一人はぴたりと叫ぶのをやめた。
 だが
 
「な、なん、何でテメェがこんな」
「わーわーわー! 黙れ、ちょっと黙れむしろ死んでよ、こっち来て!」
「ああ? テメェが――」

 死ね、とでも言いたかったのだろう男の口は途中で遮られた。ウタによって。
 
 ウタが片手で易々と男の口を、顎を砕きそうな握力で押さえている。
 ウタはリンゴを片手でつぶしちゃうんだぜ。
 勿体無いから止めなさいって叱ったけど。
 
「ありがとウタ。そんでこっち来てってば」

 男の手を引いて西さんから離れる。
 
「もしかして君って西さんのチームの人なの?」
「だったらどうだってんだ!」
「どうもしない、むしろどうもしてほしくない」
「つーかテメェこそ何でここいんだよ。しかも女みたいなカッコしやがって」
「死んじゃえ!」

 てへっとウインクしてみる。
 彼のこめかみに青筋が浮き上がった。
 
 彼は……名前知らないや。ええと、高校の同級生です。
 クラスは違うんだけど依澄の隣部屋のガラの悪い人。
 ほら、稔が転校してきた初日にハイテンションで依澄の部屋行った際に、ちらっと出てきたアイツ。
 
 そらガラも悪かろうて。今なら納得だ、もろ不良じゃん。三下みたいだけど。
 
 そんでもってコイツも例の如く私が女だとは思わなかったらしい。
 女みたいなって、みたいなって女ですけど何か問題でも!
 あ、あるか男子校にいるんだものね。
 
 ここは相手が阿呆で良かったと安堵すべきところかな。
 こんだけ普通に女の子してるのに気付かないんだ、そっとしとこう。
 
「お、オレはちょっとウタと知り合いだから会いに来ただけだよ」

 と、話を逸らして誤魔化す。
 
「おい」

 西さんの低音ボイスに揃って振り返った。
 不機嫌そうにウタもこっちを見ている。
 
「お前なにしに来た」
「あ! あ、そうでした! 南で騒ぎが起こってるんス!」

 南と聞いて西さんの眉間に皺が寄った。
 
 
 南のチームは数年前に壊滅している。
 起こり様のない騒動。
 
 一難さってまた一難という言葉通り、まだ揉め事は続くようだ。
 
 ねぇそれって私帰っていいかな、もうウタも元通りになったし南の事なんて関係ない。
 私は帰ってシャワー浴びて寝たいよ。
 
 こんだけ長々と時間割いてさ、全く萌える展開にならないんだもの!
 
 
  

end

'10.9.10~10.15
 


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