▼10 「香苗はずっと何処行ってたんだ? どうしてオレんとこ来なかった?」 「え、何処ってそりゃぁ学校に。遠いとこだからここには来れなかったんだよ」 「遠い? お前あの女子校じゃなかったのか」 しまったぁー!! 受けると公言していた女子校は家の近所だ。 目敏い西さんのツッコミに冷や汗が流れる。 他の誰よりも西さんには気付かれちゃいけないのに。 少しの糸口も見せちゃいけない、のに。 「西峨さん!!」 地味に焦る私を助けてくれた天の声は、耳が痛くなるくらいの大音量で西さんの名前を呼んだ。 あれデジャブ。ものっすごい聞き覚えのある声だ。 「西峨さん大変です! 南が、て、あ、おおおぉああああぁぁ!!」 「ううぅわああぁぁ!!」 「うるせぇ!」 西さんの一喝で私ともう一人はぴたりと叫ぶのをやめた。 だが 「な、なん、何でテメェがこんな」 「わーわーわー! 黙れ、ちょっと黙れむしろ死んでよ、こっち来て!」 「ああ? テメェが――」 死ね、とでも言いたかったのだろう男の口は途中で遮られた。ウタによって。 ウタが片手で易々と男の口を、顎を砕きそうな握力で押さえている。 ウタはリンゴを片手でつぶしちゃうんだぜ。 勿体無いから止めなさいって叱ったけど。 「ありがとウタ。そんでこっち来てってば」 男の手を引いて西さんから離れる。 「もしかして君って西さんのチームの人なの?」 「だったらどうだってんだ!」 「どうもしない、むしろどうもしてほしくない」 「つーかテメェこそ何でここいんだよ。しかも女みたいなカッコしやがって」 「死んじゃえ!」 てへっとウインクしてみる。 彼のこめかみに青筋が浮き上がった。 彼は……名前知らないや。ええと、高校の同級生です。 クラスは違うんだけど依澄の隣部屋のガラの悪い人。 ほら、稔が転校してきた初日にハイテンションで依澄の部屋行った際に、ちらっと出てきたアイツ。 そらガラも悪かろうて。今なら納得だ、もろ不良じゃん。三下みたいだけど。 そんでもってコイツも例の如く私が女だとは思わなかったらしい。 女みたいなって、みたいなって女ですけど何か問題でも! あ、あるか男子校にいるんだものね。 ここは相手が阿呆で良かったと安堵すべきところかな。 こんだけ普通に女の子してるのに気付かないんだ、そっとしとこう。 「お、オレはちょっとウタと知り合いだから会いに来ただけだよ」 と、話を逸らして誤魔化す。 「おい」 西さんの低音ボイスに揃って振り返った。 不機嫌そうにウタもこっちを見ている。 「お前なにしに来た」 「あ! あ、そうでした! 南で騒ぎが起こってるんス!」 南と聞いて西さんの眉間に皺が寄った。 南のチームは数年前に壊滅している。 起こり様のない騒動。 一難さってまた一難という言葉通り、まだ揉め事は続くようだ。 ねぇそれって私帰っていいかな、もうウタも元通りになったし南の事なんて関係ない。 私は帰ってシャワー浴びて寝たいよ。 こんだけ長々と時間割いてさ、全く萌える展開にならないんだもの! end '10.9.10~10.15 前 | 次 戻 |