「ウタ」

 名前を呼ぶ。
 彼は高鳥 歌生(たかとり うたう)
 長身で髪も綺麗な銀色。
 目鼻立ちがはっきりしていて、肌も白く身体つきも年齢にしてはしっかりとしている。
 
 自分に正直で嫌なものは嫌、好きなものは好きと態度で物を言う。
 気分屋で喜怒哀楽が激しい、要はお子様気質。
 癇癪を起こすと手がつけられない。なまじ腕っぷしが立つのが性質悪い。
 
「か、かなえ……」
「何やってんのウタ」

 意識して険しい声を出す。
 目に見えて狼狽えるウタに手を翳した。ビクリと身体が震える。
 今の今まで大人数を散々血祭りに上げておいて。
 悪戯が母親に見つかってバツ悪くしている子どもよろしく、目を右へ左へと忙しない。
 
 私はお姉ちゃんと二人姉妹。周りだって年上ばかりで、だからこの子の相手してると弟が出来たみたいでウズウズする。
 同い年なんだけどね。
 上げた手で彼の髪を掻き混ぜる。
 
「ウータ、このやろ元気だったみたいだグフ」
「かなえ!」

 追突する勢いで抱きつかれ、肺の中にあった空気全部押し出された。
 
「香苗、香苗……本物だ」
 
 いぃたいぃー!
 骨がぎしぎし言ってる、軋んでる。
 容赦ない締め付けに意識が遠退く。
 
 コルセットってこんな感じだったのだろうか。
 マリーアントワネット恐るべし……。助けてオスカ――
 
「その辺にしとけ、死ぬぞ」

 急に身体が軽くなり、呼吸が出来るようになった。
 西さんがウタを離してくれたらしい。
 
 にしても私は死の淵に立って何を考えていたっけな。
 とてもどうでもいい事だったような。
 
 不満たらたらで西さんをねめつけるウタは、ウウと唸り声を上げそうな勢いだ。
 
「ウタ……やめようね」

 この人に喧嘩売ったら確実に死んじゃうよ。
 西さんは規格外な人だからいくらウタでも敵わない。
 きっと西さんも何の躊躇いもなくウタを傷つける、そんな人だ。
 
「それで。何で暴れてたのかは知らないけど落ち着いた?」

 問えばウタはへにゃぁと気の抜けるような笑みを浮かべる。
 もう機嫌は直ったらしい。

 いやぁこんだけ負傷者出したんだから直ってもらってないと困るんだけどね。
 周囲は未だ呻き声だらけ。バイオハザードでも起こったのかしらという惨状だ。
 
「私がいない一年で色々あったんですねぇ、ウタがこんな荒れるなんて……」
「それを本気で言ってるお前は一年で何も成長しなかったんだな」
「なにおう!?」

 私にだって沢山ありましたよ! 特に男子校に行ったり萌えたり萌えたり!
 ちょっと萌え工作してみたり!
 
 ウタはさっきから私の手を握ってにっこにっこ。うん、やっぱウタはこうでないとね。
 さらさらの銀髪、青みがかった瞳のハスキー犬のようなウタ。



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