▼8 夕日は沈みかけ、視界が闇に染まりかけている中、暴れ狂う男の銀の髪だけがやたらと眩しい。 相も変わらず、彼は美しい。 の、だけれど。 「ひゃはははは! この糞が勝手にぶっ飛んでんじゃねぇよアァ!? どうせならぐちゃぐちゃになって死ねっ!」 あー……。 「アレ、誰デスカ?」 「どっからどう見てもお前の駄犬だろうが」 「うそーん」 知らない知らない、あんな暴れん坊見た事ない! 将軍もビックリだよ! ひぃぃ殴りかかってきた男を返り討ちにしただけでは飽き足らず喉元食い千切りに行ったよ、あの子! 闘争本能のみで動いてる、もう人間じゃない。 だって目がイッちゃってるもの、瞳孔開ききってるもの。ひゃははって笑う人初めて見たもの! 以前から兆候はあったけどね。一度ぷっつんしたら手がつけられない子ではあったけどね。 ここまで人格崩壊してるのはさすがにちょっと……。 どこの狂戦士ですか、哀・戦士にしてください。 「あれをどうやって私に止めろと……」 死刑宣告だ。きっと飛び出して行ったって私だと気付く前に反射で先に殴り飛ばしてくるよ。 呆然としている私に西さんは舌打ちした。ちょっとこの人私をターミネーターか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。 無理だろ、アイルビーバックする暇もなく昇天させられるわ。 「……じゃあ西さん少しでいいのであの子の足止めして下さい。その隙に何とかしてみます、極力」 出来なかったらごめんなさい。一・二発くらいは軽く殴られといて下さい。やり返しても私は何も言いませんので。 「お前失敗したら分かってんだろうなぁ」 そう言いながら、西さんはこきこきと肩を鳴らした。 かっけえぇぇ! ちょーかっこいい! 悪人面だし、中身なんて正真正銘の極悪人だけど。 失敗した時の事なんか分かりたくもない。 まだ全然近づいてもない、西さんが私より少しだけ前に出ただけなのに、野性の感か狂戦士は敏感にも西さんの殺気に反応した。 それはもうえぐい笑い方をしながら猛スピードで駆け寄ってきて西さんに拳を振り下ろす。 どうしてだろう。 そんなつもりなんて全然無かったし何でそんな事したのか自分でも分からないんだけど、何故か私は咄嗟に西さんを庇うように彼の前に出てしまった。 鈍い、拳がぶつかる音が耳に大きく伝わって、それでも私は痛みを感じなかった。 きつく瞑っていた瞼を開ければ拳は私の目の前で制止していた。 私の肩越しに伸びた西さんの大きな掌が受け止めて。 前にいる男の子は驚愕に目を見開いたまま固まっている。 そこにはもう血に酔った余韻も、人を傷つける事を愉しんでいる狂気も残っていない。 ほうと息を吐いた。良かった、私の知ってる瞳だ。やっと逢えた。 前 | 次 戻 |