▼3 「なんて?」 「いや……でもお前がアイツ頼りにするの解った気がする」 「ふぅん。……ん?」 なに、そんなディープな話してたの? あんな短い時間で? それ以上は話してくれなさそうなので諦めて私も家に向かう。 「お腹空いてきた……家帰ったらすぐ昼ご飯作るか。あーでも食材あるかなぁ」 「堂島って料理作れんのか」 「おうよ。昔っから家事全般は姉貴と二人でやってたから」 私の両親は二人とも仕事人間で、平日に家にいる事はまずない。 母親こそ週末にさらっと帰って来るが、父親はそれさえも稀だ。 だから私が小さい頃は姉が全部家事をやってくれてたんだけど、すぐに分担するようになった。 「え、姉ちゃんいんの?」 「そっち!?」 「美人?」 「めっちゃ食いついてるよ、ええぇー」 身内の容姿をどうこう言うのって難しくない? 客観的に見れてるかどうか微妙だよね。 「美人かは置いといて、オレとそっくり」 そのせいで小中学時代はそれはそれは被害を受けたものだ。 一部でかなりの有名人である姉とそっくりな私は、街に出かけるたびに知らない人に声を掛けられまくったり、更にはちょっと危ない目にも遭ったり。 「へぇじゃあキレイだな」 ぴたりと足が止まった。 「堂島?」 「何でもない! 何でもない!!」 こんの天然タラシがぁーー!! びっくりした、さらっと何言ってんだこの人っ! 物思いに耽ってたから聞き逃しそうになったけど! 何で恥ずかしげも無くそういう事言うかな、しかも男友達に。特に深く、というか何も考えずに言ったんだろうね、じゃなきゃね……。 赤い顔を見られたくなくて、足早に稔を抜かして前に出た。 「一応言っとくけど、姉貴に手出そうとか思うなよ。彼氏いるみたいだから」 「出さねぇよ」 ならいいけど。 一夏の間あの家を三人で過ごすのに、二人が万が一にでもくっついちゃったら私の居場所が無くなる。 二万に一つもないだろうけど、本当に一応ね。 姉はもう24歳の大学院生だし、一度も会った事ないんだけど恋人もいるらしいし。 お相手の方は姉が救いようのない腐女子だって知ってるんだろうか、そこがとても気になる。 とかそうこうしているうちに、着きました。 鍵を取り出そうと鞄の中をごそごそしていると、ガチャリと勝手に玄関ドアが開いた。 「あら香苗ナイス。ちょうど帰って来た」 「お姉ちゃん!」 これから出かけるらしい姉だった。 化粧も服装もバッチリだ。デートか? 「お帰りなさい。わたしちょっと出掛けなきゃいけなくて。で、そっちの子が電話で言ってた?」 「そうそう。方波見 稔くん」 「よろしくお願いします。すみません、夏休みの間お邪魔します」 「姉の紗衣(さい)です。親殆んどいないし、私もよく出るから全然気にしないで、楽にしてね」 姉は物凄く良い笑顔で言った。 頭の中がお祭り騒ぎになっているのは見れば分かる。 それはもう大変な事になっているだろう。 と、腕を痛いくらいの力で引っ張られた。 「ちょっと香苗、予想以上に美形じゃない。確かにあれじゃタチかネコか悩むわね」 「でしょー、最近はタチの可能性のが高いと思い始めてきたよ」 「総攻め? 総攻め?」 「私は固定CPのがいいなぁ」 「ああもう行かなきゃ! その辺は時間作ってじっくり話し合おう」 じゃあね! と手を振って慌しく姉は行ってしまった。慌しい。 「ごめん、入ろうか」 姉と私がこっそり談義をしている間ぽつんと玄関の前でさせられていた稔が、険しい顔でこっちを見ていた。 お客さんなのに放っておき過ぎた。 「なぁ……さっき、お姉さんの名前なんて言ってたっけ?」 「ん? サイだよ、紗衣」 なになに、もしかしてたったあれだけで興味持っちゃいましたか。 駄目だっつってんのにー。 稔は難しそうに考え込んでしまい、軽口も言い出せなかった。 前 | 次 戻 |