▼2 「はいはい、フーアーユ?」 ガチャリとドアを開ける。 どうせ時芽か基だろうとスコープで確認もしなかった。 「おりょ、依澄!」 そこにいたのは、真夏にも拘らずほんわか常春の空気を醸し出している依澄だった。 「あれ依澄がこっち来るなんて珍しい、ていうか何か久しぶり?」 「うん、テストとかバタバタしてたからね」 ふわふわしたオーラは相変わらずだ。 癒される、マイナスイオン放出されまくってる。 部屋の中に入るよう促した。 「どうしたの?」 「カナと一緒に家帰ろうと思って。明日だよね?」 「うん! あ、そうだ。稔も一緒に帰るの。みのるー、かたミン!」 「あー?」 ペットボトルに口つけたままキッチンから顔を出した稔は、依澄を見て一瞬だけ眉を寄せた。 見知らぬ生徒が入ってきたからだろう。 「はい注目ー。こっちのほんわか王子はオレの幼馴染の平良 依澄。で、こっちのツンデレが方波見 稔ね。明日はこの三人で帰るからそこんとこよろしく」 「よろしくね、ピクミン」 「誰がピクミンだ違ぇよ! かたミン! いやそれも違うけど!」 なんとなんと。 ついにご本人様公認の愛称になったよ、かたミン呼び。 最初の頃は頑なに拒絶してたけど、無視して使い続けてきた甲斐があったというもの。 にしてもピクミンって懐かしいな。 「あれ違った? じゃあえっと……みの、ミノタウロス」 「長っ! あだ名の方が長かったら意味ないだろ!? つーか軽く苛めだからな、それ」 「かたミン……」 肩をぽんと叩いて、過度なツッコミはするなと首を振る。 「基達と違って依澄のあれは天然なんだよ」 「余計めんどくせぇ!」 ここで残念なお知らせです。私は大変見てて面白いのですが、あまりこの二人の反りが合わないかもしれません。既に稔のHPの消耗が激しいです。 ちなみに依澄の防御力は鉄壁なのでダメージ0。 * そんなわけで、翌日の昼前に私達三人は寮を出る事にした。 基と時芽は親が外車で迎えに来てくれるという、ムカつく金持ちっぷりを発揮してた。 乗せてあげようかと尋ねられたけど、そこまで遠くもないし断って電車だ。 うちの近所は住宅街過ぎる住宅街で、慣れてない人には大層不親切な設計になっている。 道も細いし、説明しもって行くより駅から歩いた方が早そうだった。 「結構近いんだな」 学校から電車で一時間掛かるかどうかってところだ。 始めての場所で、きょろきょろと周囲を見渡す稔。 「うん、全然通いでも大丈夫なくらい」 「や、じゃなくて俺が住んでた所と」 「えぇーそうなの!?」 「電車でもうちょっと行ったところ」 マジでか。 有名私立でしかも全寮制の学校だから、各地から生徒は集まってきている。 なのに同室者がご近所さんとは。世間は狭いんだなぁ。 「て、依澄はこっちじゃなくてあっちじゃん」 二股の分岐点で、私は右で依澄は左なのに何故かこっちに着いて来ている。 「間違えちゃった」 「自分の家間違えるアホいんのか!?」 「ここにいるじゃない、かたミーン」 こんなクソ天然なところも依澄の長所だよ。 ほのぼのするよね。 「じゃあ依澄、おばさんによろしくね。多分、お邪魔しに行くと思うけど」 「うん。ああそうだ、方波見くん」 依澄はちょいちょいと稔を手招きした。 依澄がどうしてもピクミンって呼びたがるから、稔がキレて強制的に名字しか受け付けなくなった。 とても残念がっていたけど、ピクミンに何か特別な思い入れでもあるんだろうか。 彼の家にはごろごろとゲーム機が各種転がっていて、そりゃもうソフトもいっぱいあったけど、ピクミンやってたっけなぁ。 何言か話し終わると依澄は今度こそ手を振って左の道へ歩いていった。 ちゃんと家に辿り着きますように。変な人に着いていきませんように。 前 | 次 戻 |