▼5 高盛くんは先輩に促され、しかしなかなか私には謝ってくれない。 プライドというか、やっぱ攻撃対象の私にごめんなさいは難しいらしい。 「そうだそうだ! 謝るならオレに謝れ!」 「……くそっ、どうもすみませんでした! これでいいかっ!?」 「うん、いいよ」 ごめんなさいで済めば警察は要らない。今回は謝罪で済む話だ。 これぞ、小学校の終わりの会で「高盛くん、堂島さんに謝ってくださいー」「ごーめーんーなーさーいー」作戦! 最初から言ってるように、私は別に怒ってないしそこまで困っても無かったのだから。 にっこり笑って、もう終了だと全員に告げた。 納得しなかったのは稔だった。 「お前また……怒るって事知らないのかよ」 「いいや、この前かたミーが勝手にオレのナタデココinゼリー食ったときは怒ったろ」 「まだ根に持ってんのか!? 弁償しただろうが! つーかそっちの方が罪重いってか!」 「食べ物の恨みをナメたらあっかーんー」 「まあそっくりぃ」 時芽が便乗して、基が笑う。 こうなってしまったら、彼等の独壇場。 先輩や高盛くんの困惑も、稔の怒りも全部全部流れていく。 「ありがとう、でもアタシからも謝らせて。この子が迷惑かけてごめんなさい。それから高盛」 窘めるように名前を呼ばれ、ぴしりと背筋を伸ばした。 「失恋して感傷に浸るのも恋愛の醍醐味なのよ、心に傷を負った自分に酔いしれたい時期なのよ。今は黙って見守っていて頂戴な」 先輩ー! それとんだナルシスト発言ですぅー!! 憂いを帯びた自分って素敵……って言ってるようなものですー! いやでもその考えはある意味かなり女性的ではないだろうか。やはり貴方は乙女なのですね! 御見それいたしました。 そんでもって「先輩の気持ちに全然気付けなくて……申し訳ありません!」とか高盛くんどうしてしょげてるの。 恋は盲目か。 横からジタバタ足踏みする音が聞こえて何かと見てみれば、時芽が机に突っ伏して足をばたつかせていた。 先輩のナルシストっぷりがツボだったようだ。笑い上戸め。 「ちょっと時芽笑いすぎだから。ハジ何とかしてよ」 「よっしゃ任せろ。そうだなぁ、クリオネの学名は『ナメクジの形をした海の女神』なんだぜぃ」 「はぁー笑ったぁ」 「何で!?」 雑学聞くと笑いって収まるものなの!? そっちのがよっぽど雑学なんだけど! 人体の不思議過ぎるだろ。 「アホだろお前等」 いやーっ! 稔やめてよ、私もこの二人と一緒くたにするのは。 良い具合に話は逸れたけど、脱線し過ぎた感が否めない。 最後にビシッと締めて終わりにしますか。 「高盛くん。確かに君がやったことは迷惑行為だけどもね、オレはちょっとした交換日記みたいで実は楽しい一面なんかも見出したりしてたんだよ。まぁまた廊下でばったり会ったりしたら声掛けるから、そのつもりで。無視なんかしたら今度は苛め返しちゃうぞ!」 「……堂島くんって変な子ねぇ」 呆れた、と先輩は溢した。 「アイツに目付けられないようにね」 「あ、アイツ……?」 何となく不穏な響きが感じ取れた。あまり私にとって有り難くないような。 高盛くんも、はっと顔を上げてまじまじと私を見てる。彼にはアイツってのが誰か瞬時に判断できたくさい。 「知らないなら、知らない方が良い奴よ。気にしなくてもいいわ」 悪戯っ子のような茶目っ気たっぷりに先輩は言う。うふって聞こえたような気がする、いやまさか、さすがにそれは。 誰も何も言わないからきっと幻聴だったんだ、そうに違いない。 * 「あー予想外に面白い展開だったねぇ」 「何がだ。結局なぁなぁになっただけだろ」 「いいじゃん、オレらいっつもグダグダじゃん」 稔は真面目だなぁ。 寮に帰りながら、こんな会話さえもグダグダ。 このくらいの緩さが私にはちょうど良い。 何かが起こっても緩やかで。起こらなくても日々の生活に退屈する事が無い程度には楽しくて。 この学校での生活が、意外にも心地良い。抜け出せなくなりそうなくらい。 だから女なのに男子校に馴染みまくっているのも問題じゃない。 今もっとも重大な問題は、稔と私に嫌がらせしてた犯人をくっつけようとしてた作戦が大失敗した事だよ! end '10.7.7~7.22 前 | 次 戻 |