▼3 「でもマジで何でオレなわけ? 会った事ないよね?」 分かってますよ。本当は分かってますとも。 君が稔の事大好きだから、同室者でしかもずっと一緒にいる私が目障りだって事くらい。 でもここは礼儀として聞いとくべきだろうし、腐女子(いや腐男子と言っておこうか)だとバレたくないし。 にやけそうな頬を引き締めていると、不良くんは涙を引っ込めて私を睨んできた。 「ふざけんな! 今までどうして嫌がらせされてたか気付いて無かったのかよ!? お前のせいで板宿(いたやど)先輩が傷ついたからに決まってんだろ!」 「…………は?」 四人とも、不良くんが登場したときよりもそれらしいリアクションを取った。 口をぽかんと開けて不良くんを見ていた。 えーと……んん? 「板宿って誰。つか君の名前は何?」 いい加減、不良くん呼びだと不便だ。 「なっ、板宿先輩だぞ!? 球技大会のときに会ってるだろうが! ……おれは高盛(たかもり)だ」 「んー? 柚谷・鷲尾・カマ先輩しか会ってないけど」 「カマって何名前っぽく言ってんだよ! カマって言うなーっ!」 「ああ、あのカマ野郎の事か」 必死に否定してるところ悪いけど高盛くん、カマが板宿先輩を指してるって気付いたって事は君も彼がカマだって認めてる証拠だからね。 高盛くんは完全に正直村出身者だ。 「やっぱあいつの差し金かよ」 忌々しそうに吐き捨てた稔。 食って掛かったのは高盛くんだった。 「先輩は何も知らねぇ! おれが勝手にやった事だ。ただあの人が沈んだ顔してるの見てられなくて……、こんな事やったってただの八つ当たりだし、何の解決にもならないって分かってたけど……」 「高盛くん……」 つー事はなんですか。 稔←板宿←高盛 こういう事ですか。 一方通行万歳! 高盛くんは板宿先輩を涙を飲んで身を引いたのに、私という邪魔な存在のせいで先輩の恋が成就しない事実を知り居ても立ってもいられなかったと。 健気だ! 健気受けだ! ん? 受けなのか? 私的にはもうどうにかして板宿先輩とくっついてもらいたい。 となると、先輩はカマ……もとい乙女なので、えーと……。 うん、可愛い年下攻めってのもありだよね。 自己完結させる。 「ふーん、でも普通さぁ恋敵でしかも先輩振った稔に嫌がらせするもんじゃないの?」 恋って言った! 時芽が恋って言った! よしもう私の妄想だけじゃないって事だね。誰の目から見ても高盛くんは板宿先輩大好きっ子だ。 興奮するぜ。 「はぁ!? 恋敵ってアホか! おれは板宿先輩の事そんな風には……好きだけどそういうんじゃなくて! つか男に恋ってアホか!」 顔を真っ赤にしてテンパってる。時芽アホかって二回言われてる。 面白いほど反応しておいて、先輩の事そういう風に好きじゃないとか説得力がまるで無い。 かーわーいーいー。もう照れちゃってぇ。 「先輩はなぁ、おれが不良に絡まれてたところを助けてくれた、強くて優しい男の中の男なんだよ! おれの憧れなんだ!」 「何そのベタな過去話」 上を向いて、ポテチの袋の残りを全部食べきった基がけらけら笑っている。 確かに。 しかも先輩は男の中の乙女だよ。現実見た方がいいよ、板宿先輩はそりゃもう男らしい外見してるけども。 「一つ分かんないんだけどさぁ、タカモリくんはカナくんにどうしてもらいたいわけ? 何したら気が済むの?」 時芽はじゃがりこを噛み砕きながら。 スナック菓子って麻薬に近いものがあるよね。 やめられない、とまらない。 前 | 次 戻 |