あれから大変だった。
 会長をその場に置き去りにして私と稔は世界新じゃなかろうかという猛スピードで自室に帰った。
 
 良かった、お風呂先に入ってて本当に良かった。
 恐怖に怯えながらお風呂入るのってあれ地獄だよね。
 シャンプーのときに目瞑ってると、恐怖に負けて発狂しそうになるよね。
 鏡見るのがあんなに恐ろしい瞬間ってないと思う。
 
 
 ていうか誰だよ、先輩には誰が見えたんだよ。いや、何が人間のように見えたんだ。
 きっと自販機に写ってる影か何かを見間違えたんだ。
 
 稔と部屋の隅っこでしゃがみ込み、協議を交わした結果そういう事で落ち着いた。
 
 そうであってくれぇー!
 
 
 大分落ち着いて、後は寝る準備をするだけ。
 
 だがここでまたしても問題が。
 気にしない、忘れようとすればするほど、逆にその事ばかり考えてしまうものだ。
 パーティションで寝室を区切ってしまえば真っ暗の部屋に私一人。
  
 
 耐えられない。死ぬ。
 だってきっと幽霊出てきて私が呪い殺されそうになっててもパーティションで仕切った向こうにいる稔は気付かないっていう、そういうパターンのやつでしょ!?
 
 ああ幽霊って言っちゃった、頑なにその単語だけは避けて通ってきたのに言っちゃった!
 
「かたミー、今日は徹夜しよう、完徹しよう。お誂え向きに明日は土曜日」
「一人でやってくれ、俺は眠い。寝る」
「なんですってこの裏切り者! 暗闇の中で目が瞑れるというのか勇者め!」
「あーじゃあ電気つけといてやるから。寝ろ」
 
 さっきまで自分だって怖がってたくせに、なんで平然としてられるんだ。
 もしかしてあまりにも幽霊が怖すぎるから、幽霊なんてクソ食らえな別人格を作り出す事によって精神的安寧を保ったんじゃなかろうか。
 
 便利な世の中だな、おい。私にもその機能おくれよ。
 
「分かった。じゃあかたミンは寝てていいから、一緒にウノやろう。な?」
「一体何が分かったってんだ、ああ?」
「だってかたミンだけずーるーいー」

 私だって寝たいよ、もう週末だもの身体はへとへとなんだ。休みたいって訴えてるんだよ。
 でも脳が変に活性化されちゃってんだもの。
 
「あーうぜぇ、寝る」

 あっれ。カマ先輩の件にかたが着いて態度って改まったんじゃなかったっけ。
 どうしてこんなに冷たいのか。
 
 文句たれる私を放ってさっさとベッドに潜り込んだ稔が憎い。
 しかもさり気なく電気けしやがった。
 つけてていいって言ったくせに!
 
 片田舎で周り田んぼと山に囲まれたここは、夜になるとびっくりするくらい静寂の闇に包まれる。
 
 大人しく私も自分のベッドに入ってみたんだけど、しんと静まり返った室内に、じわじわ恐怖が舞い戻ってきた。
 



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