真っ暗なエントランスに自販機の明かりだけが煌々としている。
 
 無事二人共飲み物を買い終えてほっとしていると、肩に何かが触れた。正しくは何かが置かれたような。
 目をやると、私の肩の上に人の手が――
 
「いやああぁぁーーっ!! みの、稔っ!!」

 無我夢中で振り払って稔にしがみ付く。
 
「なに、何なの? おばけ!?」
「……いや。犬」
「いぬ?」

 ずっと瞑っていた目を開け、そうろりと今まで私が立っていた方を見る。
 そこには、私に絶叫され拒絶の意を込めた態度を取られて大層ショックを受けて項垂れている高貴そうな犬、もとい柚谷生徒会長様がいた。
 
「うわぁっ、ごめんなさい! 手引っ叩いてごめんなさい!」
「お、親にもされた事ないのに」
「うおぅ重い……」
 
 宇宙規模で重い。
 本当に申し訳ありません。
 
「仲直り、した?」
「え」
 
 誰と誰が。きょとんとしていると、先輩は人差し指で私と稔を指した。
 
 前会ったのは球技大会。
 あの時の稔はプチストーカー被害に合っていて、ピリピリしていた。
 今はもう解決して普段通りになってるから、先輩は犬並察知能力でその差を嗅ぎ分けたのだろう。
 
「仲直りしました」
「らぶらぶ」

 は?
 平仮名表記っぽく、どこか棒読みっぽく言われた言葉に私と稔は目を合わせた。
 
 近っ!!
 
 稔の腕をしっかり掴んだままだった!
 慌てて離れる。稔も言われるまで気付いてなかったらしく、私と同じように勢いよく後ろに退いた。
 
 全然嗅ぎ分けてなかった。動物的勘なんてものじゃなかった。見たまんま。
 先輩は人間でした。
 
「せ、先輩、ラブラブってこたぁ無いです! 誤解です」
「俺もコイツも男なんで。気持ち悪いんで」
「大丈夫」
「何が!?」

 終いには稔と二重奏。
 そんな私達を見て満足そうに微笑む会長は、それはもう素敵だけれども。
 見惚れてしまうくらいに煌いて見えるけれども!
 
 とんだ勘違いだからね!?
 
「仲良いのはいいけど」
「いやだから、仲良しの種類間違えてるから!」
「仲間外れ、よくない」

 は?
 三分前と同様、また稔と目を合わせた。
 今度は適度に距離を保ってはいるが。
 
 そして稔の、いや私も顔を強張らせている。
 
 仲間外れってどういう意味。この場合は先輩の事だと考えるのが妥当だが、当の柚谷先輩は諭すようにしていて、全然構って欲しそうなオーラは放っていない。
 
 ぐうるりと体を回転させて辺りを見渡してみるも、他には誰もいなかった。
 
「せ、先輩……柚谷先輩。あの、仲間ってオレと稔と……」
「ん」

 端的に先輩は指差した。
 私と稔の間にある空間を。
 
 ゾワリと背中が粟立つ。
 
「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!」


 


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