血の気がどんどん引いていく。稔のモテっぷりが今ばかりは恨めしい。
 
「顔が良ければ誰だっていいんでしょ? 平良くんや他の子にも色目使っちゃって」

 なんだか色々とリサーチされてんですけどぉー! 寮でしか会ってないはずの依澄と接点あるのバレてるぅっ。
 他の子って多分だけど基と時芽だよね、可哀相に二人しか居ないのにその他で一括りにされてるよ。いやこの場合は幸運なのか。
 二人はこの先輩のお眼鏡には適わなかったようだ。
 
 ていうか依澄逃げて!

「あ、あのですね、何で当然のようにオレが男と、その、関係を持とうとしてるとか、思っちゃったりしたのかなーなんて……訊いても?」

 現実、私女だからさらっと流しそうになったけど、今男っていう事になってるんだった。
 先輩みたいにオープンにオネエキャラにしてないんで。設定としては可愛い女の子大好き少年なんで、今決めたけど!
 何故同類みたいな扱いにされてるのか。
 
「ピンとくるのよ。あんた隠してるつもりでしょうけど、アタシと同業者でしょ」

 職業だったんですかー!?
 うわ、しかも自分の勘が外れてるかもとか微塵も思ってないよこの人! 全然疑問系で返してくれなかったよ。
 
 違うからね? 全然掠りもしてないから!
 私は産まれた時から心も身体も女だもの、根本から別個のものだもの!
 
 心が男ではない、という半分は正解しているのだから、勘っていうのも強ち馬鹿には出来ないけれど。
 
 ちらりと稔を見ると、俯いていた。だけど肩が揺れてる、こいつ笑ってるよ! ひどい!
 
「……深くは言及しませんが(やぶへびになりそうだから)、それで先輩はオレが稔の傍に居るのが気に入らないと」
「そういう事よ」

 お、この人潔いなぁ。稔の前でさらっと言っちゃうんだから。
 稔に話しかけた一回っていうのも、私についてだったのかもしれない。
 
 うーん、キャラとしては濃い過ぎて胸焼けしそうだけど、人としては結構好きかもな。
 
 最初の段階から勘違いされているだけなので、意外と冷静になれた。
 
「オレのこの位置が欲しいですか」
「欲しいわね」

 うわぁカッコいいなー。惚れそう、惚れないけど。
 どうしよう稔。ここは私が悪女(悪男?)になって追い返すべきなんだろうけれど、こんな真っ直ぐな人に嘘ついて邪険にしたくない。
 
 嘘がバレたとき、とんでもなく恐ろしい仕打ちが待ち構えていそうだし。
 
 かといって稔の気持ちも考慮しないわけにはいかない。
 先輩は自分に正直に突き進んでいるだけ。純粋な好意だったとしても稔は実際ここの所辟易してしまっている。
 
 私への態度がどこか余所余所しかったのは、先輩の言葉と目を気にしてたんだろう。
 
 案外友達思いだ。
 
「あげたくないですね。オレ、稔の事大好きですし。稔が退けって言うなら仕方ないですけど、じゃないなら嫌です」

 嘘をつきたくないなら、事実を伝えるまでだ。真実であるかはまた別問題として。
 大好きだもの、二次元キャラとしても友達としても。

 先輩から稔に目を移すと、これでもかと目を見開いていた。
 
 そりゃ驚く。だけど引かないで。今稔が引いたら、先輩は更に詰め寄ってくる。
 そして私は勘違いによって友達を失くす!
 意図を読み取れと念じる。

 稔はさっと表情を戻した。

「俺は退けなんて言わない。お前がそこにいてくれて良かったって思ってる。他の奴じゃなくて……香苗がいい」

 稔……。こ、これは、恥ずかしい。
 無理やり言わせたようなものだから、私が恥ずかしがっちゃいけないんだろうけど、これは!

 きっと今私の顔は真っ赤だ。稔もそうだからお相子って事で。
 
 しかも真実味を持たせるために名前呼びだし。ドキッとしたっちゅーに。
 


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