「何の茶番かしら」

 冷めた声の先輩に心臓が跳ねた。
 嘘はついてないけど、真実ではない。そんなグレーゾーンで濁している事に気付かれたのか。
 
 先輩はきつく私を睨みつけ、でもすぐに目元を緩めた。
 
「もう、まるでアタシはピエロじゃない。方波見くんも人が悪いわ、そんなにその子好きなら最初に言って頂戴」
「え、あー……」
「貴方も、方波見くんがいるのに他の子引っ掛けてんじゃないの」
「っ!」

 バァン! と力一杯背中を叩かれた。
 衝撃で前のめりになって稔に倒れ込む。
 
 「あらやだ、見せ付けてくれちゃって」とか先輩は呆れていらっしゃるが、これアナタのせいですよ?
 ツッコミ面倒だから大人しく支えられておきますが。

「ああやだやだ。お邪魔虫は消えた方が良いかしら?」
「せ、先輩! 一個濡れ衣晴らしていいですか。オレは友達に色目使えるほど器用じゃないです」

 そんな魔性になんてなれない。なってみたいものだとは、ちょっとばかり思う。
 
 先輩は意外そうに私を見て、ふっと初めて柔らかく笑った。
 
 
 
 彼が去った後。
 私と稔はその場にへたり込んだ。何だあの圧倒的な存在感は。
 
「かたミー凄いのに目つけられたねぇー……、泣くかと思った」
「この一ヶ月あれに耐えた俺を褒めろ」
「うん、普通に偉い。凄い。しっかしまぁこれで一件落チャック・ウィルソン?」
「ネタ古いな」

 ああいつもの稔だ。
 うざがられてるかもって一瞬不安になってたけど、ただの思い過ごしで良かった。
 カマ先輩に睨まれるよりよっぽど堪える。
 
「そろそろ戻るか」
「試合終わってる事希望」
「だな」

 立ち上がって、さり気なく私に手を差し出してくる稔は男前だ。
 そういう所がカマの心を鷲掴みにしたんじゃないかな。きゅんとするよね。
 
「稔のそういうスマートさが熟女に人気なんかねぇ。老齢な方にもお嬢さんって言っちゃうとことかさぁ」
「誰がみのもんただ、みのが一緒だからか」
「もんたよしのり」
「それもう俺じゃなくてみのと似てるだけだろうが」

 ごつん、と一発拳固が飛んできた。
 じみーに痛い。
 
「ふふふ、DV稔おかえりー!」
「おお、ただいまっと」

 手を広げて抱きつこうとしたのに、アイアンクローかまされました。
 近寄ってくる野郎を止めるときはこれっていう決まりでもあるのだろうか。よくされる気がする、アイアンクロー。

「かたミー冷たい……、さっきは『俺の隣は香苗じゃないと駄目なんだ! 愛してる、ラブ!』って言ってくれたのに」
「ジャロに電話するぞコラ」

 嘘・大げさ・まぎらわしい。
 さすがツッコミ将軍稔だ、なんて安心感。
 基も時芽も何かと言うとボケに突っ走っちゃうから、私が心置きなくボケられるのは稔と話してる時だけだ。
 
 めちゃくちゃ楽しんでいるのがバレたらしく、稔ははぁと溜め息を吐き出した後、笑った。
 駄々を捏ねる子どもにするように、悪戯が過ぎるペットを見るように、ふざける友人に呆れたと言わんばかりに。
 
 
 それがとても心地良く、稔が言ってくれたあの言葉は強ち嘘でも大げさでも無かったのではないかと自惚れてしまった。
 
「ところでウチのクラスは勝ち残ったかな」
「無理だろ」


 こうして球技大会とは全く関係の無い場所で大盛り上がりしたのでした。
 
 
 結論として、普段はオネエ言葉なのに受けとそういう雰囲気になったときだけ男に戻る攻めは大好物。
 


end

'10.5.18~6.10



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