▼3 「教育的、指導」 「!?」 心地良いバリトンの声、そして手刀。 私の腕を掴んでいた稔の手に振り下ろされた。 離れた手に、ふんと少し満足気だ。 なるほど。なるほどね! そういう事ですか。 五月から今か今かと稔に生徒会が接触してくる日を待ち続けていた私ですが! 実は知らない所でもう対面済みなのですね!? そして何やかんやで涎もののイベント終了後に惹かれたと、そういうわけですね! だから稔が私の腕を掴んでたのが気に食わなくてムカついて無理やり離させた。 じっちゃんの名にかけてこの推理って正しいに違いない。 つまり私は噛ませ犬的立ち位置か! いやいやいや、そんな心配全くないのに! むしろ喜んで稔差し出す所存ですよ。 しかし美味しい、かなり美味しい場所で会長×転入生が見られる。 つーか稔マジでいつの間に!? そういうのは逐一報告しなさいよね全く。 大抵が私達と一緒に行動してたのに。 何、私が寝た後で夜の散歩に出かけ、一般生徒は知らない庭園チックな種々の花達に囲まれた温室でこっそりばったり出くわしたのか!? 「……何すか」 不機嫌を顕にした稔に、柚谷先輩はむっとしたけれど、すぐに口元を押し上げた。にやっと意地悪く笑う。 俺様笑いだぁー! 生だ、生で見ちゃった! 何で私の目にはシャッター機能がついてないんだ、ワンモワプリーズ! 「早くコイツの靴どうにかしたいんすよ」 先輩に向かって言うにはあまりにも悪い態度だ。ともすればケンカ売ってるようにも聞こえかねない。 いい調子、いい調子。そうやって突っかかって行くのは正しい選択だよ! そんでもんって会長に「俺様に口答えするなんていい度胸だ気に入った」って、あれこの人貶されたのに何で喜んでんのマゾなの? なフラグが立つウハウハのシーンになる! だからもっと突っかかるべきだよ。 立て、いや立たせるんだバミー! 興奮覚めやらない私が、念のこもった熱視線を稔に送っていると、お相手様である会長様がじぃとこっちを見ていた。 ん? 「その子の怪我、君のせい、じゃない?」 「はぁ? つか誰だか知りませんけどさっきから何なんすか」 んん? 何かがおかしい。何かが……。 ……ええ、あれ二人はお知り合いじゃないのですかぁ!? 稔この人誰だか知らないの!? え、え、知らない生徒に手刀かましたの会長!? ていうか…… いやそれより、この人とんだ勘違いしてる! 「あ、怪我じゃなくて、上から絵の具の入った風船がぱーんって割れて」 「ぱーん」 ……やはり。うっすら引っかかりは感じてた。 さっきから柚谷先輩の口調が幼いなっていうか、拙いなって気付いてた。 無表情イケメンが子どもみたいにぱーんとか言ったら、そのギャップで私の頭がぱーんってなるだろうが! まさかのギャップ萌えで熱くなりかけた頭を冷やそうと、会長から他所に目をやると、後方でこちらを窺っていた時芽と基がいた。あっちも私が見ているのに気付いて、何やら手を振っている。 違う、ただ振ってるんじゃなくて……あれは、手話!? わっかんねぇよ、時芽なんで手話そんな使いこなしてんの!? え、基のはあれ何か押さえる様な仕草で、もしやモールス信号!? 更に分かんない!! すごいよ、すごいけどあんた等馬鹿だろ。 前 | 次 戻 |