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「何であの子ら、稔はノーマークだったんだ? 一番食い付きそうなのに」
「あれそう言えば何で?」
「あぁっ? 堂島忘れたんかよ」

 ジロリと稔に睨まれた。えっ、なんかあったっけ。
 首を傾げて、冬休みにあの女の子達とどんな会話をしたか思い出そうと記憶を掘り起こしてみる。
 
 ちく、ちく、ちく、ちく……
 
「ごめん、全然思い出せない」
「お前の脳みそは小ハエ並みか」
「やだぁ! ハエはハエでも更に小さいじゃん。脳みそ更に小さいじゃん!」
「二ヶ月前の事そんなすっぽり忘れてるポンコツのみそだろうが。お前が俺を彼氏だって」
「ああっ!!」

 そうだ、そうだった!
 あの時は稔をハンターから守るために口から出まかせでそう言っちゃったんだった。
 
「えっ、お前等付き合ってんの!? いつの間に」
「別れよう、香苗」
「ちょっ、ウタ止めて。なんか付き合ってもないのにウタにフラれたみたいに聞こえる」
「じゃあ付き合おう、香苗」
「それも違うと思うの!」
「ややこしいなもう! 稔と香苗は付き合ってんのかって聞いてんだよ」

 おっと。珍しくおっきーが切れた。
 しかもウタが喋ってるのを遮ろうとするなんて。
 そこまでして聞きたいか。私と稔が付き合っているのかどうか。それもそうか、親友の事だものな。
 いやでもさぁ
 
「分かるっしょ」
「だよな。付き合ってないよな」

 くっそ。即座に答えられても腹立つな! そうかい、私と稔じゃ恋人同士だとそんな違和感ありありかよ。
 
 次々と注文したのがテーブルに並べられて、それぞれ遅い昼食にありつく。
 
「やたら気にしてるけど、沖汐は香苗の事好きなの?」
「ウタ!?」

 シレッと何怖い事聞いてんの!?
 そんな事あるわけないでしょうが!
 
「おっきーが好きなのは稔の方だって。好き過ぎて稔に恋人がいないかどうかって気が気じゃいたたたたた足! 足!」

 稔にぎゅむむむむって足踏まれためっちゃ痛い!
 
「もう、暴力に訴える男なんて最低よ!? 今度やったら別れてやるんだから!」
「はんっ、簡単に俺と別れられると思ってんのか?」

 まさかのDV稔! やだそれは流石に私も許容できない!
 そして演技がちょっと真に迫ってたのが怖い。うん、さすが実力は俳優浪形さんの息子。

「でもおれの初恋って堂島」
「はぁっ?」
「の、姉ちゃんなんだよなー」
「えぇぇっ、お姉ちゃん!?」

 そんな事ってある!? 確かに昔っから何度か会ったりした事はあっただろうけど、初恋!? そりゃおっきーが私に恋しちゃってたなんて言われるよりよっぽど説得力あるよ? 幼稚園児の初恋は保育士さん的な?
 いやでも……
 
「何でお姉ちゃん?」
「だって美人じゃん。加茂兄妹従え、不良蹴散らしてかっけぇし。胸おっきいし。しかもあの須藤さんと付き合ってんだぜ、マジかっけぇ!ってなるだろ」
「いや分からん」

 即答で否定した稔。
 だけど私は暫く呆然とおっきーの言った事を頭の中で反芻していた。
 
 加茂兄妹の二人は分かる。あの人達は本当に強くて頼りになるお兄さんお姉さんで私大好き。最近会ってないけど元気にしてるかな。
 何だかもう一人、すごい人物の名前が出てきましたけど。

「すすす、須藤さん!? あの夜の帝王(笑)と称される、あの!?」

 ホストか! と最初聞いた時はツッコミは入れたものだ。懐かしい。
 一体誰が最初に言い出したんだろうね。意外と須藤さんの相棒だった山野井さんかも。
 
 須藤さんとは、東さんのもう一つ前のボスです。
 私も何回かお会いしたくらいで、いまいちどんな人かは知らないんだけど……
 
 めちゃくちゃ怖い。西さんも怖いけど、須藤さんの方が更に数倍怖い。
 なんというかもう、堅気じゃないくらいのあの圧が。美形から繰り出される無表情でガン飛ばす圧の強さがハンパない。
 
 そんな人が、お姉ちゃんの彼氏、だと!?

「その須藤さんは今は俺等の学校の教師だからな」
「は? ……え、何?」
「須藤先生。化学の。な、高鳥」
「うん、いる」
「まじでぇぇ!? ヤクザじゃないの!?」
「お前、それ絶対本人に言うなよ」

 言うわけないじゃん! 私まだ死にたくないもの!
 お、お姉ちゃんの恋人が真っ当な職に就いてる人で一安心だけど、似合わなさすぎでしょ。あの人が先生?
 
 だめだ、想像の域を超えてる。

「ううう、考えないようにしとく」
「もし紗衣さんと結婚したら、須藤さんがお兄さんだもんな」
「考えさせないで!」

 頭を抱えて呻く。
 稔は須藤さんを知らないらしく、いまいち話に入れないようだった。
 うん、西さんでもあんなにビビってんだから、きっと稔が須藤さんと遭遇したら気絶しちゃうね。
 私も気絶しそうになる。

「にしても、香苗ってやっぱ紗衣さんに似てるよな。あでも一部は全然」
「ドコ見てんだ警察呼ぶぞ、おっきーさんよぉ」
「おい沖汐、コンプレックス刺激するんじゃ痛っ!! おま、あ、いや」

 稔のスネ、所謂弁慶の泣き所を容赦なく蹴りました。
 あまりの痛さに私に文句を言いかけた稔は、私の無言の圧力に怒りの度合いを見て取って、慌てて言葉を切った。
 
 そして焦りながらフォローをし始めた。
 
「お、俺は別に大きさだけが全てじゃないと思うぞ」
「そうそう、感度が大事!」
「沖汐黙ってろ! 堂島気にする事ないから、な? あるに越したことはないかもしれないけど、無くたって死ぬわけじゃなし」
「ウタちょっとこの二人沈めて!!」

 おっきーはもうどうでもいいとして、稔は慰めようとしてんのか、私の心を傷だらけにしようとしてるのかどっちなのよ!?
 
 これだから男って生き物はデリカシーってものが無くていけない!
 
「香苗、もう食べたしコイツ等放って帰ろう」
「よしきた!」

 もうまともなのウタだけだよ。
 稔をグイグイと押しやってテーブルから出ると、ウタの手を取ってカウンターへと進む。
 
「お会計おねがいしゃーっす」

 チーン! ベルを鳴らして店員さんを呼ぶ。
 
 はいはーいと出てきたお兄さん店員が、にこやかに会計をしてくれた。
 稔とおっきーの分は知らん。
 
「堂島!」

 慌ててやって来た稔がお金を支払った後、お兄さん店員が物凄く優しい目で稔を見て、ぽんぽんと肩を叩いた。
 
 あのお兄さん……絶対稔狙いだよね。
 冬休みに来た時も同じような事やってたし。
 



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