▼page.3 一階は駐車場で、階段を上がった二階がお店になっている、チェーンのどこにでもあるファミレス。 「あったかーい」 ああ、頬を突き刺すような冷たい空気じゃない。暖房のよく効いた温かさにホッとする。 店員さんに窓際の席を案内されて四人で座ろうとした。 さっと一番に座ったのはおっきーだった。 うん、何と言いますか。誰が彼の隣に誰が座るかという、私達三人で無言の目線での争いが始まったのだ。 「私パス」 「おいいきなり一抜けしてんなよ」 「香苗、こっち座ろう」 「よしきた」 「おい!」 「稔この人と親友なんでしょ? 横座るくらい屁でもないでしょ」 「屁っていうな。こいつと一番古い付き合いなのは堂島だろ?」 「それ言うなら最近ずっと一緒にいるのウタだね」 「香苗、こっち座ろう」 「よしきた」 「話をリセットしてんじゃねぇよ!」 「お前等全部聞こえてんだよ!! おれだって傷つく時はあるんだぞ!?」 あっれ。視線で会話してたつもりだったのに、普通に喋ってたみたい。えへへ 笑って誤魔化そうとけど、おっきーはムスっとしてしまった。いっつもヘラヘラしてるし、おっきーだって私に酷い事一杯言ってくるくせに! これからむっすーに改名してやろうか。 「高鳥こっち来いよ」 「は?」 「ごめんなさい、おれの隣に座って下さいお願いします」 おおおお! ウタかっこいいいい! おっきーに完全勝利じゃないか。そうかそうか、二人の上下関係はそうなってましたか。 ウタがますます男らしくなっちゃって、友人である私は鼻高々ですよ。 うふふとウタを見つめていると稔が早く座れと押してきた。 つまり私が奥。おっきーの正面。やだぁ! 泣き言を言ってみたけど、シラッと稔に無視されました! 辛い! 「ねぇおっきー、稔が冷たくて辛いんだけど、こういう時どうしたらいいの?」 「とにかく押す。稔の機嫌が急降下するのもお構いなしに」 「なるほど。かたみーん!」 押せと言われたので、とりあえず稔の腕にしがみ付いて押してみた。 「なんっでそこで沖汐の言う事聞くんだよ!」 「ウター、かたみんがつれなくて辛いんだけどどうしたらいいと思う?」 「殴ればいい」 「ウタ……そういう所は変わらないね」 気に入らないから相手を殴ろうっていうその不良の考えね。ウタの思考に根付いてしまったのね、私悲しい。 「まぁ総合すると稔のドSは治らない」 「雑い纏め方すんじゃねぇよ。あとSじゃねぇ」 「稔の一番大事な個性を否定しちゃダメだよ」 「俺の真価はそんなトコにあったのかよ」 あら知らなかったの、自分の最も重要な個性がサドだという事を。 ドSのSは真価のS 「何食おうかなー」 さっさと一人メニューを捲り出したおっきー。マイペースにも程がある。いやずっと注文もしないままここで喋ってるわけにもいかないけど。 「あれ、香苗じゃん」 「あ、ひ、久しぶりだね」 なんかこれ前にもあった。 女の子達が三人。私の中学の時の同級生。 そういやこのファミレスって、冬休みに稔と食べに来たトコだったな。その時に会った子達だ。どんな偶然。 というか、どんだけこの子達このファミレス愛用してんの。 「香苗、ちょっと面貸せや」 「え、なんで私呼び出し食らってんの……?」 くい、と顎をしゃくって一人の子が私を呼ぶ。まじ怖い。女子怖い。 立ち上がろうとしたけど、私は奥の席に座っていて手前にいて退いてくれる気配はない。そして女子たちに一向に視線をくれる気配もない。 オロオロする私に、女の子達は仕方がねぇと言わんばかりに表情を顰め、そして一人が私に顔を近づけてきた。 「あんた随分いい御身分じゃない。良い男ばっか侍らせて」 「え!? おっきーは良い男じゃないよ!?」 「否定するとこそこかよ。さっきからおれの心はボロ雑巾だぜ?」 「この二人、あんたがキープしてるってんじゃないなら紹介しなさいよ」 「キープってなに!? 紹介するする! ていうかウタは知ってるでしょ? こっちは沖汐くん。詳細は私にも不明。何でここにいるのかも謎」 「同じ小学校だっただろうが! 詳細不明ってこたぁないだろ!?」 不明だよ。ハッキリ言って、私おっきーの事ほとんど何も知らないからね。 小学校の同級生だったっつっても、そんな仲が良かったわけでもないし。 女の子達は各々「よろしくね」というような事をウタやおっきーに言って去っていった。 連絡先は交換しなかったみたいだけど、一体今後どうよろしくする気なのか私の与り知るところじゃない。 私経由で教えろって言ってこない事だけを願おう。 前 | 次 戻 |