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「み、稔?」
「あ?」

 ひえええっ、嘘でしょ、唯先輩級にマジこえぇぇっ!
 怒ってるってわけじゃないみたいだけど、とんでもなく機嫌悪い。何この人、いつからこんなやりにくい性格になっちゃったの。

「分かった! この二人に私が女だってずっと黙ってられた事が気に食わなかったんだね!? 俺だけ除け者かよとか思っちゃったんだね! ほら二人共謝って!」
「悪い事は言わないからそのくらいにして素直に謝りなよぉカナくん」
「そうだよカナちゃん。時芽にしては珍しく真面目にアドバイスしてんだから聞いといた方がいいよ」

 えぇっ!? そうなの? 二人して私を生贄に差し出そうとしてるわけじゃなくて……マジで私がしくじったのか……。
 
「えぇっと稔、私知らないうちに何かやっちゃったみたいで。何がいけなかったのか言ってくれたら気を付けるよ」
「……気を付けるっていうか……お前等ニヤついてんじゃねぇよ!!」
「あはははははーっ!!」
「指差すな秋月っ」

 取り敢えず、私と稔はもれなく時芽達のおもちゃにされているんだという事は分かった。
 稔が時芽に食って掛かってるんだけど、顔が赤い。おお、ちょっと可愛いとか思ったらこれは失礼になるのかな。
 
 くそ、今までならご飯3杯はいける妄想ごっつぁんです級の美味しいシチュなのに、禁止令が出てて出来ないのがもどかしい。
 
 ていうかズルくね? 稔ってば、私が腐女子だって気づいて妄想禁止令出してからの方が更に萌える表情したりして来るんだよ。なんだ、なんの苦行を私は強いられているんだ。
 
 好きな人で妄想するなと言われるかもしれないけど、これはもう私のライフワークみたいなものだから仕方ないよね、うん。
 
「で、カナくん。編入試験あると思うけど勉強捗ってるのぉ?」
「んなわけないじゃん、神様仏様時芽大明神様、たすけてけすたー!」

 急に痛いとこ突いてくんじゃないやい、ビビるじゃないの。
 
 私、転校します! と言って簡単にぽこーんと学校変えりゃいいっていう話じゃない。
 試験というなんとも恐ろしい壁が待ち構えていやがる。
 
 どんなに高い壁だろうとな、俺には意味がねぇんだぜ。
 越える必要なんてねぇ。ぶっ壊して突き進むからな!
 
 とか漫画のキャラみたいなカッチョいい事言ってる場合じゃないんだ。ちゃんと勉強して臨まないと下手すりゃ私は高校二年生になれないかもしれない。
 
 だというのに、腐女子だってバレてみたり、稔とギクシャクしてみたり、主に稔関係で悩まされてこの所勉強なんて手につかない状態だったわけです。
 この責任はかたミンに取ってもらってもいいんじゃないかと思われる。
 
「時芽勉強おせーて! 稔、いざという時のために絶対にバレないカンペ用意しといて!」
「あるか、んなもん」
「教えてあげるのはいいけど、高くつくよぉ?」

 優しくない! 私の友達は優しくない。
 
「カナくん、俺に出来る事ある?」
「ごめん基、それはない」
「ないの!? 応援する事すら俺は許されないの!?」
「勉強中横で騒ぐでしょ。心の中だけでひっそりとお願い」

 勉強するっつってんのに、絶対くっついて来て横で騒いで、飽きたらこれ見よがしに漫画読みだすんだぜこいつ。応援じゃなくって足を引っ張りたいのかと怒る羽目になるのは目に見えてるからね。
 
 何かしてくれようっていう気持ちだけ有難く受け取っておくよ。そしてその無駄な優しさは私じゃなく、この世の何処かにいらっしゃる攻め要員に使うといいよ。

「ん、でも時芽と依澄に勉強見てもらったら何とかなるよね、ね!?」
「どうだろうねぇ」
「……私ってそんな学力ヤバス?」
「大丈夫だよカナちゃん、ダメだったらもう一年ここに居ればいいんだから!」
「それが出来たら苦労しねぇわ!」

 出来ないんだよ、そういうお約束になってるんだから。この学校も置いてくれないよ。しかも父が絶対に許さない。
 あの人優しいんだけど、約束違えるとビックリするくらい怖いんだ。
 
 怒り方で言ったらちょっと稔と似てるかもしれない。稔はマグマがぐつぐつ煮えたぎってるように、地の底から這いあがってくるような攻め方してくるけど、父は氷山の凍てつくような冷徹さで氷点下の如く静かにけれどじわじわと責め立ててくるんですよ。
 
 ワーッと来てくれない分、どっちも長引くのがいただけない。
 そんなわけで、私は絶対に失敗出来ないのです。
 
 受験が終わって一年後に、またこんなしんどい思いしなきゃいけないなんて!
 
 




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