▼page.3 稔とリビングでテレビを観ながら喋ってる。 「時芽と基も私が女だって前々から知ってたんだって」 「マジかよ!?」 そういえば、と稔に教えると予想通り彼は目を見開いて驚いた。 だよねー驚くよねー。 「秋月はもしかしたらとは思ってたけど、まさか折笠まで……」 「マジかよっ!? 時芽が知ってるかもって思ってたの!?」 嘘でしょ、稔どんな観察眼してるの。なのにどうして一学期の間私が女だと気付かなかったのか。可笑しいじゃないか、こんなずっと一緒にいたっていうのに! いややめよう。この議論は私の脳内会議で何百回と繰り返し行われて来たけど、毎回残念な結論しか出ないんだ。 「あいつ、シレッとしてるけど鋭い所あるし、得体が知れない奴だからな……堂島の事知ってて面白がって泳がせてるんじゃないかと」 「時芽こえぇぇっ!!」 なんだそれ、ちょっとした陰謀論が見え隠れしてる! 別に泳がせてたとかじゃなく、理事長であるお祖父さんの言いつけがあって黙っててくれたってのが事実なんだけどね。 まぁ面白がってたっていうのは本人も言ってたし当たってるのが悲しい所だね。 「……ん? つまり折笠は堂島が女だって分かっててあんなベタベタしてたのかっ?」 「そう、そうなんだよ! それを本人に追求したら『女だとダメなの?』って清らかな瞳で聞き返してきやがったんだよ!」 ああ、稔の目から光が消えた! 常識が……と呟いてすっごい遠くを見つめている。その気持ちはよく分かるよ。 悪い奴じゃないんだ、むしろめっちゃ良い奴なんだよ基ってば。だけどね、だけど、たまに私の常識から逸脱した言動を取ってくれるよね。 こんな世間から隔離された空間にずっといるせいなのか、お坊ちゃま故に一般人の私とは価値観が違うのかと二秒くらい悩んだ事があるくらいだ。 「おっじゃまっしまーす!」 ノックもピンポンも鳴らさず、バターンと突然玄関ドアが解放された。 おっと噂の常識無さ男がやって来たようだ。 「仲直りしたぁー?」 基と時芽、ズッ友コンビの登場です。 「お陰さまでね」 「ふぅん、じゃあ昨日はお楽しみでしたね?」 「ばっ」 にんまり、と笑みを深めながら時芽が聞いてきた。はぁ!? 何言ってんのこの人。 しかもその手やめなさい。右手の親指と人差し指の先を合わせて円を作り、その中に左手の人差し指を出し入れしている、その動きを直ちにやめなさい! 「わ、私と稔はまだ清い仲です!」 「いやお前も何言ってんだよ!」 稔が頬をちょっぴり赤らめながら私の頭を乱暴にグシャグシャにしてくる。 ごめ、動揺しちゃって……。登場して数秒でとんでもない下ネタ投下してきた時芽にらしくもなく、ドギマギしてしまった。 「えー? ほんとにー? 怪しいなぁ」 「ぎゃああっ、基!? 何ナチュラルに寝室開けようとしてんの!?」 人生で一番だったと自負できる瞬発力で、立ち上がって猛ダッシュで寝室の扉のドアノブに手を掛けている基にタックルかましたった。 二人一緒に倒れ込む。私は基を下敷きにしたおかげでそこまで痛くは無かったから良かった。うん、悪い事したなんて思わないよ! 「あっはー、基は事後の物証がないか確認しようとしたんだよねー」 「笑顔でサラッと何言ってくれてんじゃい! ないよ、この世のどこにもそんなモノ存在しないから!」 あるのは洗濯物だけだよ! 見られたら困るものって意味じゃ、これも同じ部類に入るのかもしれない。うん、これ見られたくないから基にタックルかましたんだし。 基が下でじたばたもがいてるけど、私の知ったこっちゃないわ。乙女の秘密を覗こうとした罪は重いのだ。 「ほらほら二人共ぉ、いつまでジャレてんの。早く離れないと稔さんがまた機嫌損ねちゃうよー」 「え、なんで?」 「なんでだろうねぇ、ねぇ稔さん?」 「知るかっ!」 ちょ、既に稔のテンションがダダ下がりじゃないですか! なになに、どうしてそんな不機嫌マックスになっちゃったの。 時芽と、やっと私がどいて起き上がれた基がジッと私の方を見てくる。なに、アイコンタクトで私がどうにかしろって訴えるのやめてもらえないかな。 私一人が犠牲になれってか!? なんでよ、もしかしなくてもこれ、私のせいなのか。何したっけか!? 基にタックルかましたのがそんなに気に食わないの? 稔がしたかったの? 基に突撃どきゅんやりたかったの? 是非私も見てみたい。けどそうじゃないよね! 残念だけど。 前 | 次 戻 |